少女達の青春群像 ~舞、その愛~
「えっー、歩ちゃん、今なんて言ったの!」
舞は驚きのあまり学校では滅多に出さない大声を出した。
「ちょっとムッチー、そんなに大きな声を出すと目立っちゃうよ。私の方はそれでもいいんだけど…」
「あっ、いけない、いけない。私としたことが、またはしたない声を出してしまったわ。最近多くなっているから気をつけないと。目立ってしまったら、私のか弱い心臓が発作を起こしてしまうもんね」
「あ…ははは、はは。そうだね」
歩は舞の相変わらずの言葉に呆れながらも同意しておく。既に目立っていると伝えたらどうなってしまうかわからないからだ。
それに今の話題は、ここにはいない響歌のこと。これ以上、舞を混乱させると脱線していいくだけなので黙っておくのが賢明だ。
現在は習字の時間だ。話に夢中になっているのは舞達だけではない。クラスにいるみんなが気の合う人と一緒におしゃべりをしながら課題を仕上げている。
習字というと堅苦しく思いがちだが、実際は2時間の間に先生から出された課題を仕上げさえすればいいだけなので凄く楽な授業だった。
それでも今日はかなり難しい課題を出されたので、できれば沢山練習しておきたい。
歩にはそういう思いもあったが、しばらく考えると筆を置いた。隣にいる舞は、最初から課題をする気が無く墨汁さえ出していない。
「…で、それは本当のことなの?」
今度は極端に小さくなった舞の質問を聞き取ると、舞と同じくらいの小声で答えた。
「本当」
「くそ~、黒崎君かぁ、これは大穴だったなぁ。全然予想外の人だったよ。でも、またどうして歩ちゃんは知っているの?響ちゃんはいつから好きなの?何がきっかけ?2人は話したことがあるの?黒崎君の方は脈アリなの?歩ちゃんの他に知っている人はいるの?」
歩の予想通り質問づくめだったが、歩は律儀にも舞の質問にすべて答えていった。
「私は夏あたりに響ちゃんから聞いたんだ。あっ、でも、響ちゃんから話してくれたんじゃないよ。響ちゃんって、1学期の頃は黒崎君とよく話していたから、なんとなく怪しいなぁと思って問い詰めたんだ。そしたら選択科目の授業で仲良くなったんだって。ほら、あの2人って、一緒の美術でしょ。でも、響ちゃんは好きみたいだけど、黒崎君の方はどうなのかわからないの。黒崎君って、色々な女の子と仲がいいから。だから話はしているみたいだけど、それだけかなぁ、今の2人の関係は。あっ、このことはまだ私しか知らないはずだから、ムッチーもみんなには話さないでね」
な、なんていうこと。私なんて全然気づかなかったのにぃ~!
舞は悔しくなり、机を叩いた。
「そんな楽しそうな出来事があったなんて。歩ちゃん、ズルイ。響ちゃんも響ちゃんだよ、教えてくれたら良かったのに!」
一度だけではなく何回も机を叩いている。悔しさをそこにぶつけているのだ。
「ちょっとムッチー、だからまた目立っちゃうってば!」
歩が慌てて止めると、舞は我に返った。
「…あ」
「それに仕方がないよ。その頃、ムッチーは川崎君にぞっこんで、他人の恋路なんて目に入らなかったんだから。それにきっと響ちゃんも、ムッチーに相談してムッチーの恋の成就を遅れさせたくなかったんだよ。ほら、あれでいて響ちゃんって、意外と友達思いでしょ?」
歩は舞の好きそうな言葉を敢えて選んで響歌のフォローをした。
「そういえば、そうか。でも、それにしたって、もっと前に聞きたかったよ。何か手伝えることもあったかもしれないのに。私だって、自分だけ幸せになんてなりたくないんだから。響ちゃんにも幸せになって欲しいし、カップル同士でダブルデートだってしたいもの」
…話が飛躍している。
それでもそれがいつもの舞なので気にしないことにする。
「でも、これから響ちゃんは大変だね。黒崎君が好きなのに、2人の男子から気に入られているんだもの。人に好かれるのはいいことなのだろうけど、どうするんだろう?」
確かにこれは非常に厄介な状況だ。しかも4、5組の男子は同じ経済科のせいか一緒にいることが多い。
えっ、ということは響ちゃんの今の状況って、黒崎君に知られているんじゃないの?
そうなると響ちゃんの恋は、これでジ・エンドになる可能性が高いわけで…
「失恋パーティーの準備でもしておく?」
つい口からそんな言葉が出てしまった。
「ムッチー!」
当然、歩に怒られる。
「だって…歩ちゃん、友達が好きな女の子に、わざわざ黒崎君が手を出すかな。そうでなくてもあの人って、女の人には困ってなさそうでしょ?」
黒崎秋良君は4組の生徒で、テツヤ君には負けているものの、私から見ても結構いい線の顔立ちをしているし、とっつき易い性格をしているの。
経済科の男子の中で一番目立っているんじゃないかしらね。
モテているかどうかはまだよくわからないけど、この間、駅で上級生の女子にカラオケに誘われているところを見たから人気はある方だろう。競争率も高いと思う。
それでもテツヤ君の方が人気があるし、断然競争率が高いけどね!
あぁ、私の恋の行方も、どうなってハッピーエンドを迎えることになるのかしら?
テツヤ君も攻略しにくいからこそ、やりがいがとてもあるのだけど。
「はぁ、恋って辛いものなのね」
舞は目を閉じ、両腕で自分を抱きしめた。
「はは…は…そ、そうかもね。ははは…」
見ている歩も辛かった。
この場から逃げ出したかったが、授業中なのでそうもできない。
舞は驚きのあまり学校では滅多に出さない大声を出した。
「ちょっとムッチー、そんなに大きな声を出すと目立っちゃうよ。私の方はそれでもいいんだけど…」
「あっ、いけない、いけない。私としたことが、またはしたない声を出してしまったわ。最近多くなっているから気をつけないと。目立ってしまったら、私のか弱い心臓が発作を起こしてしまうもんね」
「あ…ははは、はは。そうだね」
歩は舞の相変わらずの言葉に呆れながらも同意しておく。既に目立っていると伝えたらどうなってしまうかわからないからだ。
それに今の話題は、ここにはいない響歌のこと。これ以上、舞を混乱させると脱線していいくだけなので黙っておくのが賢明だ。
現在は習字の時間だ。話に夢中になっているのは舞達だけではない。クラスにいるみんなが気の合う人と一緒におしゃべりをしながら課題を仕上げている。
習字というと堅苦しく思いがちだが、実際は2時間の間に先生から出された課題を仕上げさえすればいいだけなので凄く楽な授業だった。
それでも今日はかなり難しい課題を出されたので、できれば沢山練習しておきたい。
歩にはそういう思いもあったが、しばらく考えると筆を置いた。隣にいる舞は、最初から課題をする気が無く墨汁さえ出していない。
「…で、それは本当のことなの?」
今度は極端に小さくなった舞の質問を聞き取ると、舞と同じくらいの小声で答えた。
「本当」
「くそ~、黒崎君かぁ、これは大穴だったなぁ。全然予想外の人だったよ。でも、またどうして歩ちゃんは知っているの?響ちゃんはいつから好きなの?何がきっかけ?2人は話したことがあるの?黒崎君の方は脈アリなの?歩ちゃんの他に知っている人はいるの?」
歩の予想通り質問づくめだったが、歩は律儀にも舞の質問にすべて答えていった。
「私は夏あたりに響ちゃんから聞いたんだ。あっ、でも、響ちゃんから話してくれたんじゃないよ。響ちゃんって、1学期の頃は黒崎君とよく話していたから、なんとなく怪しいなぁと思って問い詰めたんだ。そしたら選択科目の授業で仲良くなったんだって。ほら、あの2人って、一緒の美術でしょ。でも、響ちゃんは好きみたいだけど、黒崎君の方はどうなのかわからないの。黒崎君って、色々な女の子と仲がいいから。だから話はしているみたいだけど、それだけかなぁ、今の2人の関係は。あっ、このことはまだ私しか知らないはずだから、ムッチーもみんなには話さないでね」
な、なんていうこと。私なんて全然気づかなかったのにぃ~!
舞は悔しくなり、机を叩いた。
「そんな楽しそうな出来事があったなんて。歩ちゃん、ズルイ。響ちゃんも響ちゃんだよ、教えてくれたら良かったのに!」
一度だけではなく何回も机を叩いている。悔しさをそこにぶつけているのだ。
「ちょっとムッチー、だからまた目立っちゃうってば!」
歩が慌てて止めると、舞は我に返った。
「…あ」
「それに仕方がないよ。その頃、ムッチーは川崎君にぞっこんで、他人の恋路なんて目に入らなかったんだから。それにきっと響ちゃんも、ムッチーに相談してムッチーの恋の成就を遅れさせたくなかったんだよ。ほら、あれでいて響ちゃんって、意外と友達思いでしょ?」
歩は舞の好きそうな言葉を敢えて選んで響歌のフォローをした。
「そういえば、そうか。でも、それにしたって、もっと前に聞きたかったよ。何か手伝えることもあったかもしれないのに。私だって、自分だけ幸せになんてなりたくないんだから。響ちゃんにも幸せになって欲しいし、カップル同士でダブルデートだってしたいもの」
…話が飛躍している。
それでもそれがいつもの舞なので気にしないことにする。
「でも、これから響ちゃんは大変だね。黒崎君が好きなのに、2人の男子から気に入られているんだもの。人に好かれるのはいいことなのだろうけど、どうするんだろう?」
確かにこれは非常に厄介な状況だ。しかも4、5組の男子は同じ経済科のせいか一緒にいることが多い。
えっ、ということは響ちゃんの今の状況って、黒崎君に知られているんじゃないの?
そうなると響ちゃんの恋は、これでジ・エンドになる可能性が高いわけで…
「失恋パーティーの準備でもしておく?」
つい口からそんな言葉が出てしまった。
「ムッチー!」
当然、歩に怒られる。
「だって…歩ちゃん、友達が好きな女の子に、わざわざ黒崎君が手を出すかな。そうでなくてもあの人って、女の人には困ってなさそうでしょ?」
黒崎秋良君は4組の生徒で、テツヤ君には負けているものの、私から見ても結構いい線の顔立ちをしているし、とっつき易い性格をしているの。
経済科の男子の中で一番目立っているんじゃないかしらね。
モテているかどうかはまだよくわからないけど、この間、駅で上級生の女子にカラオケに誘われているところを見たから人気はある方だろう。競争率も高いと思う。
それでもテツヤ君の方が人気があるし、断然競争率が高いけどね!
あぁ、私の恋の行方も、どうなってハッピーエンドを迎えることになるのかしら?
テツヤ君も攻略しにくいからこそ、やりがいがとてもあるのだけど。
「はぁ、恋って辛いものなのね」
舞は目を閉じ、両腕で自分を抱きしめた。
「はは…は…そ、そうかもね。ははは…」
見ている歩も辛かった。
この場から逃げ出したかったが、授業中なのでそうもできない。