少女達の青春群像 ~舞、その愛~
「えっー、橋本君って、好きな人がいるの!」
舞は自分の考えに没頭していたが、響歌の絶叫交じりの言葉に我に返った。
いや、これはもう我に返るしかないだろう。まるで『まだ暴露大会は続いているのよ』といわんばかりの内容なのだから!
もしかして橋本君ってば、響ちゃんに告白するつもりなの?
ちょ、ちょっと、ちょっと待って、待って。すぐ傍には私もいるのよ。そりゃ、あなた達から少しだけ後ろには下がっているけど、しっかりと傍にいますから!
こういうことは2人きりの時に言うべきことでしょ!
それとも本当に私の存在を忘れているの?
舞は大いに慌てた。このまま走って逃げようかと思うくらいだ。
いや、橋本が舞に声をかけるのが一秒でも遅ければ実際にそうしていただろう。
「どうした、今井さん。さっきから青くなったり赤くなったりして…大丈夫か?」
どうやら2人は、舞の存在を忘れてはいなかったようだ。
響歌が興奮しながら舞の肩を叩く。
「ちょっと、聞いた、奥さん。橋本君ってば、好きな人がいるみたいよ。しかも私らと同じクラスに」
えぇっ!
「ねぇ、ムッチーは誰だと思う。聞いてみたくない?」
…聞きたい。
「ねぇ、ねぇ、橋本君。それはいったい誰よ。誰に恋焦がれているの?」
響歌に叩かれた肩が痛かった。
でも、そんなことよりも橋本君よ。
橋本君の好きな人って、響ちゃんじゃなかったの!
「そこまで言ったのなら教えてよ!」
響歌は興奮状態のまま橋本を問い詰めている。
それでも舞の方も、そんなことを知ったからには落ち着いてなんていられない。
「…誰?」
舞が中葉以外の男子に緊張せずに声をかけられたのはこれが初めてではないだろうか。
橋本は驚いたように舞を見たが、すぐに困った顔になる。
響歌の方は未だ興奮状態だったので、舞の初体験に気づいていない。
「ねぇ、誰よ。早く答えた方がスッキリするわよ」
舞には目も向けず、困った顔の橋本を問い詰めている。
「だったら、ヒントくらい出して。それくらいならいいでしょ」
「じゃあ、ヒントだけ言う。だからこれ以上訊いてくるなよ」
どうやら橋本はヒントだけ与えてこの場から逃れようとしているらしい。
ヒントだけというのは少し不満だったが、問い詰めるチャンスはこれからもある。
仕方がない。今日のところはそれで引き下がっておいてあげるわよ。
えぇ、今日のところはね!
「それでもいいから、ヒント頂戴」
響歌も舞と同じ考えらしく、今日のところは引き下がるようだ。
橋本が仕方なさそうに口を開いた。
「これまでオレと噂になったことがある人だよ」
…えっ、じゃあ、やっぱり響ちゃんじゃないの?
いや、でも、この様子だと響ちゃんに告白している風には見えないわね。
舞が響歌の方をチラッと見てみると、響歌は少し顔を伏せて考えていた。
「噂……噂となると、今までで4人。その中でも………」
「ねぇ、響ちゃん。わかった?」
舞が声をかけると、響歌は顔を上げた。
「2人に絞られた」
あっさりと答えてくれる。
「響ちゃん、凄い。私なんてまったくわからないのに。で、その2人は?」
「加藤雫さんと小長谷瑠美さん」
響歌は舞に2人の名を教えると、橋本の方を見る。
「でしょ?」
「あぁ、そうだよ。でも、オレが言うのはここまでだ。もうタイムリミットだしな」
「…そのようね」
響歌が残念そうに車窓を見た。
暗くてよく見えないが、橋本の言葉からして彼が降りる仙田駅が近づいてきたようだ。鈍いブレーキ音を立てて電車が駅のホームへと入っていく。橋本とはここでお別れだ。
「じゃあな」
電車の扉が開くと、橋本は逃げるように降りていった。
舞は自分の考えに没頭していたが、響歌の絶叫交じりの言葉に我に返った。
いや、これはもう我に返るしかないだろう。まるで『まだ暴露大会は続いているのよ』といわんばかりの内容なのだから!
もしかして橋本君ってば、響ちゃんに告白するつもりなの?
ちょ、ちょっと、ちょっと待って、待って。すぐ傍には私もいるのよ。そりゃ、あなた達から少しだけ後ろには下がっているけど、しっかりと傍にいますから!
こういうことは2人きりの時に言うべきことでしょ!
それとも本当に私の存在を忘れているの?
舞は大いに慌てた。このまま走って逃げようかと思うくらいだ。
いや、橋本が舞に声をかけるのが一秒でも遅ければ実際にそうしていただろう。
「どうした、今井さん。さっきから青くなったり赤くなったりして…大丈夫か?」
どうやら2人は、舞の存在を忘れてはいなかったようだ。
響歌が興奮しながら舞の肩を叩く。
「ちょっと、聞いた、奥さん。橋本君ってば、好きな人がいるみたいよ。しかも私らと同じクラスに」
えぇっ!
「ねぇ、ムッチーは誰だと思う。聞いてみたくない?」
…聞きたい。
「ねぇ、ねぇ、橋本君。それはいったい誰よ。誰に恋焦がれているの?」
響歌に叩かれた肩が痛かった。
でも、そんなことよりも橋本君よ。
橋本君の好きな人って、響ちゃんじゃなかったの!
「そこまで言ったのなら教えてよ!」
響歌は興奮状態のまま橋本を問い詰めている。
それでも舞の方も、そんなことを知ったからには落ち着いてなんていられない。
「…誰?」
舞が中葉以外の男子に緊張せずに声をかけられたのはこれが初めてではないだろうか。
橋本は驚いたように舞を見たが、すぐに困った顔になる。
響歌の方は未だ興奮状態だったので、舞の初体験に気づいていない。
「ねぇ、誰よ。早く答えた方がスッキリするわよ」
舞には目も向けず、困った顔の橋本を問い詰めている。
「だったら、ヒントくらい出して。それくらいならいいでしょ」
「じゃあ、ヒントだけ言う。だからこれ以上訊いてくるなよ」
どうやら橋本はヒントだけ与えてこの場から逃れようとしているらしい。
ヒントだけというのは少し不満だったが、問い詰めるチャンスはこれからもある。
仕方がない。今日のところはそれで引き下がっておいてあげるわよ。
えぇ、今日のところはね!
「それでもいいから、ヒント頂戴」
響歌も舞と同じ考えらしく、今日のところは引き下がるようだ。
橋本が仕方なさそうに口を開いた。
「これまでオレと噂になったことがある人だよ」
…えっ、じゃあ、やっぱり響ちゃんじゃないの?
いや、でも、この様子だと響ちゃんに告白している風には見えないわね。
舞が響歌の方をチラッと見てみると、響歌は少し顔を伏せて考えていた。
「噂……噂となると、今までで4人。その中でも………」
「ねぇ、響ちゃん。わかった?」
舞が声をかけると、響歌は顔を上げた。
「2人に絞られた」
あっさりと答えてくれる。
「響ちゃん、凄い。私なんてまったくわからないのに。で、その2人は?」
「加藤雫さんと小長谷瑠美さん」
響歌は舞に2人の名を教えると、橋本の方を見る。
「でしょ?」
「あぁ、そうだよ。でも、オレが言うのはここまでだ。もうタイムリミットだしな」
「…そのようね」
響歌が残念そうに車窓を見た。
暗くてよく見えないが、橋本の言葉からして彼が降りる仙田駅が近づいてきたようだ。鈍いブレーキ音を立てて電車が駅のホームへと入っていく。橋本とはここでお別れだ。
「じゃあな」
電車の扉が開くと、橋本は逃げるように降りていった。