少女達の青春群像 ~舞、その愛~
橋本の好きな人は?
暴露大会から数日経った、ある日の放課後。
「最近、橋本はここにこないなぁ」
中葉は突然そう言うと、教壇の方を見た。それにつられて舞と響歌も同じ方を見る。視線の先には橋本が高尾と談笑していた。
あれ以来、橋本は放課後になっても舞達の方に来なくなっていた。
「なんでだろうなぁ?」
中葉は首を傾げたが、舞と響歌には原因がわかっていた。
やっぱり…避けられている!
声に出さずとも、2人の思いは一致していた。
橋本君ってば、絶対に好きな人のことで問い詰められるのが嫌なのよ。
それならあんなこと言わなければいいのに。橋本君って本当にわからない男だわ。
舞は少し怒っていた。これについては響歌も同様の思いだった。
こんな中途半端な状態で終わらせないでよ。お陰で、コッチは悶々とした日々を送らなければいけない羽目になっているんだから!
舞はあれからずっと橋本の観察をしていたが、やはりその感想は以前とそう変わらなかった。
加藤とはよく話しているのに、小長谷とはまったく話していない。橋本が2人の方を見ていることも無い。
「本当に好きなのかなぁ?」
ついボソリと口にしてしまう。
舞の言葉に、中葉が反応した。
「ムッチー、どうかしたの。今、好きとかという言葉が聞こえてきたけど?」
「えぇっ、私、今口に出していた?」
「あれ、これって、もしかしてマズイことだったのか?」
響ちゃん、どうしよう!
舞が助けを求めるように響歌を見ると、響歌が舞を睨みながらも中葉に訊ねた。
「中葉君は橋本君の好きな人を知っているの?」
舞は驚いて声を上げる。
「響ちゃん、そんなストレートに言っていいの?」
「もういいでしょ。本人が中途半端なままで終わらせてしまったんだから。誤魔化すのも面倒だしね」
確かに…それはそうかもしれない。
それに中葉君は橋本君と同じ男だ。女子に言えないことでも、男子同士なら口に出せることは多々あるはずよ。好きな人のことなんてその筆頭でしょう?
私達が知らなくても、中葉君なら何かを知っているはずだ。
舞は期待を込めた目で中葉を見る。
そんな視線の先で、中葉はサラッと言った。
「橋本の好きな人って、響ちゃんじゃないの?」
あれ、やっぱりそうなの?
すぐに響歌が否定する。
「違うって。それは違うのよ、中葉君。私じゃなくて、加藤さんか小長谷さんのどっちかなの。このことは本人から聞いたから間違ってはいないはずよ。でもね、橋本君ったら、ここまで白状した癖に教えてくれないの。ちなみに中葉君はどっちだと思う?」
「それは聞いたことが無かったなぁ。でも、そうだとすると噂も侮れないね。加藤さんも小長谷さんも、四股のうちの2人だもんなぁ。う~ん、どっちかなぁ」
ダメだ、期待をした私達がバカだった。
考え込む中葉を前に、2人は落胆した。
だが、響歌の方はすぐにいつもの様子に戻り、尚も中葉に訊ねる。
「そういえば中葉君の方は、好きな人いないの?」
「き、響ちゃん!」
これはいくらなんでもストレート過ぎるよ!
舞は動揺したが、訊ねられた中葉の方はなんの迷いもなく答えた。
「オレは松村さんかな」
これには2人共驚いた。あっさり言ってのけたのもそうだが、その相手にも、だ。
松村さんというのは、舞達のクラスメイトである松村理央《まつむらりお》のことなのだろう。中葉と話をしているところも見たことがあった。
それでも彼女には年上の彼氏がいたはずだ。この前、真子が道端で松村さんが彼氏とキスをしているのを見たと騒いでいたので間違いないだろう。
「あの人って、彼氏がいるんじゃ」
つい口から出てしまった。
「ムッチー!」
響歌は止めようとしたが、中葉が涼しげな顔で舞を庇った。
「響ちゃん、いいんだよ。オレもそのことは知っているから。松村さんとその彼氏って、中学の時からのつき合いらしいよね。そりゃ、初めて知った時はショックだったけど、今は大丈夫だよ。オレが好きだったのも1学期の頃だしさ」
「なーんだ、今じゃなくて1学期の頃なのかぁ」
「ムッチー!」
響歌がまたもや舞をたしなめる。
中葉は楽しそうに2人を見ていた。
「だけどムッチーって、本当に面白いなぁ。しかもかなり毒舌だし。今まで大人しい人だとしか思っていなかったのに、こんな裏があるんだもんなぁ。人は見かけによらないって本当のことなんだな」
中葉の言葉に、舞はテレていた。
中葉に対しては完全に地を出してしまっている。どうやら橋本がいない方が、舞にとっては過ごし易いらしい。
舞のそんな変化を、響歌が気づかないわけがない。
あ・や・し・い。
もしかしたら舞の心は本当に中葉に向かうのかもしれない。いや、もう既に向かっていそうな気もする。
こうして舞が自然に振舞える男子は中葉だけだし、最近では舞の口から川崎の名が出る回数が激減しているのだ。
文化祭の時には四六時中『テツヤ君!』と言っていた、あの舞が!
あれから徐々にだが『テツヤ』と言う回数が減り、今では周りが川崎のことを訊ねないと言わなくなっている。
もちろんまだ完全に川崎から中葉に転んだわけでは無さそうだが、この様子だとそうなるのに時間はかからないだろう。
実は響歌は舞の誕生日に写真立てをプレゼントしたことがあった。ちなみに舞の誕生日は11月29日。舞曰く『いい肉の日』と覚えると覚えやすいらしい。
もちろん悪戯好きの響歌なのでそのまま渡すわけが無い。その中に文化祭の時に撮っていた中葉の写真を入れておいた。プレゼントと共に渡した手紙にも中葉のことばかり書いておいた。
それらを渡された舞は、顔を真っ赤にさせて怒っていた。言葉遣いも悪くなり『手紙にも中葉君のことばかり書きやがって』と言われたものである。
その時から響歌は怪しんでいたのだが、今となっては自信満々に言える。
ムッチーは絶対に川崎君から中葉君に心変わりをする!
「好きな人といえば、川崎にも好きな人がいるみたいだなぁ」
いきなり中葉の口から川崎の名が出てきた。
響歌はタイムリー過ぎる名前に驚いたが、すぐに舞の方に視線をやった。
舞の表情は引きつっていた。しかもそのままの状態で固まっている。
本当はこの場では訊きたくないが、流したりしたら中葉に疑われてしまう。
響歌はそう判断して、中葉に訊いてみる。
「そ、そうなんだ。川崎君にもいるんだね。で、その人は?」
「さぁ、そこまではわからないんだよ」
中葉が答えた瞬間、舞の顔が輝いた。
それはきっと、わ・た・し・ね。
響歌には悲しいことに舞の考えていることが手に取るようにわかってしまった。
「今日はなんて素晴らしい日なのでしょう。響ちゃん、今日はお祝いよ。宮内駅で盛大に祝いましょう!」
舞はこのまま踊り出しそうなくらいご機嫌だ。
響歌はトイレに行くフリをして教室から逃げ出した。
「最近、橋本はここにこないなぁ」
中葉は突然そう言うと、教壇の方を見た。それにつられて舞と響歌も同じ方を見る。視線の先には橋本が高尾と談笑していた。
あれ以来、橋本は放課後になっても舞達の方に来なくなっていた。
「なんでだろうなぁ?」
中葉は首を傾げたが、舞と響歌には原因がわかっていた。
やっぱり…避けられている!
声に出さずとも、2人の思いは一致していた。
橋本君ってば、絶対に好きな人のことで問い詰められるのが嫌なのよ。
それならあんなこと言わなければいいのに。橋本君って本当にわからない男だわ。
舞は少し怒っていた。これについては響歌も同様の思いだった。
こんな中途半端な状態で終わらせないでよ。お陰で、コッチは悶々とした日々を送らなければいけない羽目になっているんだから!
舞はあれからずっと橋本の観察をしていたが、やはりその感想は以前とそう変わらなかった。
加藤とはよく話しているのに、小長谷とはまったく話していない。橋本が2人の方を見ていることも無い。
「本当に好きなのかなぁ?」
ついボソリと口にしてしまう。
舞の言葉に、中葉が反応した。
「ムッチー、どうかしたの。今、好きとかという言葉が聞こえてきたけど?」
「えぇっ、私、今口に出していた?」
「あれ、これって、もしかしてマズイことだったのか?」
響ちゃん、どうしよう!
舞が助けを求めるように響歌を見ると、響歌が舞を睨みながらも中葉に訊ねた。
「中葉君は橋本君の好きな人を知っているの?」
舞は驚いて声を上げる。
「響ちゃん、そんなストレートに言っていいの?」
「もういいでしょ。本人が中途半端なままで終わらせてしまったんだから。誤魔化すのも面倒だしね」
確かに…それはそうかもしれない。
それに中葉君は橋本君と同じ男だ。女子に言えないことでも、男子同士なら口に出せることは多々あるはずよ。好きな人のことなんてその筆頭でしょう?
私達が知らなくても、中葉君なら何かを知っているはずだ。
舞は期待を込めた目で中葉を見る。
そんな視線の先で、中葉はサラッと言った。
「橋本の好きな人って、響ちゃんじゃないの?」
あれ、やっぱりそうなの?
すぐに響歌が否定する。
「違うって。それは違うのよ、中葉君。私じゃなくて、加藤さんか小長谷さんのどっちかなの。このことは本人から聞いたから間違ってはいないはずよ。でもね、橋本君ったら、ここまで白状した癖に教えてくれないの。ちなみに中葉君はどっちだと思う?」
「それは聞いたことが無かったなぁ。でも、そうだとすると噂も侮れないね。加藤さんも小長谷さんも、四股のうちの2人だもんなぁ。う~ん、どっちかなぁ」
ダメだ、期待をした私達がバカだった。
考え込む中葉を前に、2人は落胆した。
だが、響歌の方はすぐにいつもの様子に戻り、尚も中葉に訊ねる。
「そういえば中葉君の方は、好きな人いないの?」
「き、響ちゃん!」
これはいくらなんでもストレート過ぎるよ!
舞は動揺したが、訊ねられた中葉の方はなんの迷いもなく答えた。
「オレは松村さんかな」
これには2人共驚いた。あっさり言ってのけたのもそうだが、その相手にも、だ。
松村さんというのは、舞達のクラスメイトである松村理央《まつむらりお》のことなのだろう。中葉と話をしているところも見たことがあった。
それでも彼女には年上の彼氏がいたはずだ。この前、真子が道端で松村さんが彼氏とキスをしているのを見たと騒いでいたので間違いないだろう。
「あの人って、彼氏がいるんじゃ」
つい口から出てしまった。
「ムッチー!」
響歌は止めようとしたが、中葉が涼しげな顔で舞を庇った。
「響ちゃん、いいんだよ。オレもそのことは知っているから。松村さんとその彼氏って、中学の時からのつき合いらしいよね。そりゃ、初めて知った時はショックだったけど、今は大丈夫だよ。オレが好きだったのも1学期の頃だしさ」
「なーんだ、今じゃなくて1学期の頃なのかぁ」
「ムッチー!」
響歌がまたもや舞をたしなめる。
中葉は楽しそうに2人を見ていた。
「だけどムッチーって、本当に面白いなぁ。しかもかなり毒舌だし。今まで大人しい人だとしか思っていなかったのに、こんな裏があるんだもんなぁ。人は見かけによらないって本当のことなんだな」
中葉の言葉に、舞はテレていた。
中葉に対しては完全に地を出してしまっている。どうやら橋本がいない方が、舞にとっては過ごし易いらしい。
舞のそんな変化を、響歌が気づかないわけがない。
あ・や・し・い。
もしかしたら舞の心は本当に中葉に向かうのかもしれない。いや、もう既に向かっていそうな気もする。
こうして舞が自然に振舞える男子は中葉だけだし、最近では舞の口から川崎の名が出る回数が激減しているのだ。
文化祭の時には四六時中『テツヤ君!』と言っていた、あの舞が!
あれから徐々にだが『テツヤ』と言う回数が減り、今では周りが川崎のことを訊ねないと言わなくなっている。
もちろんまだ完全に川崎から中葉に転んだわけでは無さそうだが、この様子だとそうなるのに時間はかからないだろう。
実は響歌は舞の誕生日に写真立てをプレゼントしたことがあった。ちなみに舞の誕生日は11月29日。舞曰く『いい肉の日』と覚えると覚えやすいらしい。
もちろん悪戯好きの響歌なのでそのまま渡すわけが無い。その中に文化祭の時に撮っていた中葉の写真を入れておいた。プレゼントと共に渡した手紙にも中葉のことばかり書いておいた。
それらを渡された舞は、顔を真っ赤にさせて怒っていた。言葉遣いも悪くなり『手紙にも中葉君のことばかり書きやがって』と言われたものである。
その時から響歌は怪しんでいたのだが、今となっては自信満々に言える。
ムッチーは絶対に川崎君から中葉君に心変わりをする!
「好きな人といえば、川崎にも好きな人がいるみたいだなぁ」
いきなり中葉の口から川崎の名が出てきた。
響歌はタイムリー過ぎる名前に驚いたが、すぐに舞の方に視線をやった。
舞の表情は引きつっていた。しかもそのままの状態で固まっている。
本当はこの場では訊きたくないが、流したりしたら中葉に疑われてしまう。
響歌はそう判断して、中葉に訊いてみる。
「そ、そうなんだ。川崎君にもいるんだね。で、その人は?」
「さぁ、そこまではわからないんだよ」
中葉が答えた瞬間、舞の顔が輝いた。
それはきっと、わ・た・し・ね。
響歌には悲しいことに舞の考えていることが手に取るようにわかってしまった。
「今日はなんて素晴らしい日なのでしょう。響ちゃん、今日はお祝いよ。宮内駅で盛大に祝いましょう!」
舞はこのまま踊り出しそうなくらいご機嫌だ。
響歌はトイレに行くフリをして教室から逃げ出した。