少女達の青春群像 ~舞、その愛~
歩ちゃんにも幸せになってもらいたいよ。
響歌がそう思っていたら、バスケのコートからボールが自分達の足元に転がってきた。転がってきた先には普通科の男子6人がコッチを見ている。それでもその中の1人がすぐにボールを追いかけてきた。
仕方がない、拾って投げてあげますか。
響歌が行動に移すよりも歩の方が早かった。足元に転がってきたボールを拾うと、ここに向かってくる男子に向かってそれを投げた。男子生徒はそれを受け取めると、歩に向かって頭を少し下げて仲間達の元に帰っていった。
あら、歩ちゃんにしては素早い行動かも。
響歌がそう思いながら歩を見ると、歩の顔はさっきよりも赤くなっていた。
…あれ?
しかもまだ恥ずかしそうにしているし、視線はコートに釘づけのような…
「あっー、まさか歩ちゃんの言っていた人って、あの人?」
驚きながら訪ねると、歩が慌てた。
「響ちゃん、声が大きい!」
「あっ、ごめん。でも、その反応だと当たりでしょ?」
声を潜めて訊いてみると、歩は赤い顔をしたまま頷いた。
へぇ、あの人かぁ。
初めて見たけど、なかなかの好青年じゃないの。
背も高いし、顔もなかなか、優しそうな感じで良し。黒縁眼鏡をしているせいか真面目そうにも見えるけど、こうして見ている限りだとやんちゃっぽい感じだし…
「やっぱり歩ちゃんの見初める男性はポイントが高いね。良さそうな人じゃない。でも、それだったら早く教えて欲しかったな。歩ちゃんのことだし、ここに来た時から彼があそこにいるって知っていたんでしょ?」
「…うん、実は」
「もしかして彼って、よくここでバスケをしているの?」
「…うん」
「歩ちゃんはここで見ていた時もあるの?」
「…ううん、今日初めて見た」
「えっー、いつも残って見ていればいいのに!」
「だって…そんなことをしたらバレるもの。それに最近まで響ちゃん達にも黙っていたし…」
さっきまでの勢いはどこへ行ったのだろう。歩はモジモジしながら響歌の質問に答えていた。
「そういえばそうか。じゃ、これからは一緒に残って歩ちゃんのベンチの友になってあげる。それなら心置きなく彼のことが見られるでしょ?」
響歌は我ながらいい案だと思ったが、歩はすぐに断った。
「えっー、それはいいよ。響ちゃんと残っても、しょっ中そんなことをしていたら絶対にバレるし、放課後だと響ちゃんは自分のことで忙しいじゃない。私なんかにつき合ったりしていちゃダメだよ」
「えぇっー、私はベンチの友になる方がいいのにー!」
「私の方はたまに見られたら満足だから。響ちゃんは自分のことやムッチーのことを優先すること。わかった?」
いや、私としては歩ちゃんの方こそ早く幸せになってもらいたいのだけど。
相変わらず他人を優先する歩に、響歌は溜息を吐いた。
「じゃあ、彼を見たい時は我慢せずさっちゃん達に一緒に残ってもらうこと。それだったら引き下がってあげる」
「わかった」
歩は短く返事をすると、響歌の顔をじっと見た。
「どうしたの?」
「響ちゃん、正直に教えて欲しいんだけど、橋本君に対してはどう思っているの?」
その質問は最近よく仲間からされているものだった。
響歌はまたそれか…とは一瞬思ったものの、歩の表情が真剣だったので正直に話すことにした。
「橋本君のことは、今は正直わからない。好きじゃないはずなのに何故か気になる人ではあるし、あの人と話していると楽しいから。ここ数日話していなくてなんだか寂しいなという気持ちもあるのよ。でも、やっぱり黒崎君と話している方がドキドキするんだ。でもね、好きな人がいるって聞いた時、なんでだろう、ちょっとショックだった。黒崎君を好きな癖にね。勝手だよね、私って」
「さっちゃんのことは気にしていない?」
「さっちゃんは…まぁ、気にしていないかな。だってまだ自分の気持ちすら自覚していない感じだったでしょ。それに何度も言うけど、完全に橋本君の方に気持ちが傾いたわけじゃないのよ。黒崎君のことを考えている時の方が、心が痛いんだから」
響歌の心の中は相当複雑らしい。
もしかしたら私達の中で一番辛い恋愛をしているのって、響ちゃんなのかもしれない。
歩はそう思えて仕方がなかった。
「頑張ろうね、お互い」
こう、言うしかなかった。
響歌の恋の矢印は、いったいどちらを指しているのだろう。
その答えは、まだ誰も知らない。
響歌がそう思っていたら、バスケのコートからボールが自分達の足元に転がってきた。転がってきた先には普通科の男子6人がコッチを見ている。それでもその中の1人がすぐにボールを追いかけてきた。
仕方がない、拾って投げてあげますか。
響歌が行動に移すよりも歩の方が早かった。足元に転がってきたボールを拾うと、ここに向かってくる男子に向かってそれを投げた。男子生徒はそれを受け取めると、歩に向かって頭を少し下げて仲間達の元に帰っていった。
あら、歩ちゃんにしては素早い行動かも。
響歌がそう思いながら歩を見ると、歩の顔はさっきよりも赤くなっていた。
…あれ?
しかもまだ恥ずかしそうにしているし、視線はコートに釘づけのような…
「あっー、まさか歩ちゃんの言っていた人って、あの人?」
驚きながら訪ねると、歩が慌てた。
「響ちゃん、声が大きい!」
「あっ、ごめん。でも、その反応だと当たりでしょ?」
声を潜めて訊いてみると、歩は赤い顔をしたまま頷いた。
へぇ、あの人かぁ。
初めて見たけど、なかなかの好青年じゃないの。
背も高いし、顔もなかなか、優しそうな感じで良し。黒縁眼鏡をしているせいか真面目そうにも見えるけど、こうして見ている限りだとやんちゃっぽい感じだし…
「やっぱり歩ちゃんの見初める男性はポイントが高いね。良さそうな人じゃない。でも、それだったら早く教えて欲しかったな。歩ちゃんのことだし、ここに来た時から彼があそこにいるって知っていたんでしょ?」
「…うん、実は」
「もしかして彼って、よくここでバスケをしているの?」
「…うん」
「歩ちゃんはここで見ていた時もあるの?」
「…ううん、今日初めて見た」
「えっー、いつも残って見ていればいいのに!」
「だって…そんなことをしたらバレるもの。それに最近まで響ちゃん達にも黙っていたし…」
さっきまでの勢いはどこへ行ったのだろう。歩はモジモジしながら響歌の質問に答えていた。
「そういえばそうか。じゃ、これからは一緒に残って歩ちゃんのベンチの友になってあげる。それなら心置きなく彼のことが見られるでしょ?」
響歌は我ながらいい案だと思ったが、歩はすぐに断った。
「えっー、それはいいよ。響ちゃんと残っても、しょっ中そんなことをしていたら絶対にバレるし、放課後だと響ちゃんは自分のことで忙しいじゃない。私なんかにつき合ったりしていちゃダメだよ」
「えぇっー、私はベンチの友になる方がいいのにー!」
「私の方はたまに見られたら満足だから。響ちゃんは自分のことやムッチーのことを優先すること。わかった?」
いや、私としては歩ちゃんの方こそ早く幸せになってもらいたいのだけど。
相変わらず他人を優先する歩に、響歌は溜息を吐いた。
「じゃあ、彼を見たい時は我慢せずさっちゃん達に一緒に残ってもらうこと。それだったら引き下がってあげる」
「わかった」
歩は短く返事をすると、響歌の顔をじっと見た。
「どうしたの?」
「響ちゃん、正直に教えて欲しいんだけど、橋本君に対してはどう思っているの?」
その質問は最近よく仲間からされているものだった。
響歌はまたそれか…とは一瞬思ったものの、歩の表情が真剣だったので正直に話すことにした。
「橋本君のことは、今は正直わからない。好きじゃないはずなのに何故か気になる人ではあるし、あの人と話していると楽しいから。ここ数日話していなくてなんだか寂しいなという気持ちもあるのよ。でも、やっぱり黒崎君と話している方がドキドキするんだ。でもね、好きな人がいるって聞いた時、なんでだろう、ちょっとショックだった。黒崎君を好きな癖にね。勝手だよね、私って」
「さっちゃんのことは気にしていない?」
「さっちゃんは…まぁ、気にしていないかな。だってまだ自分の気持ちすら自覚していない感じだったでしょ。それに何度も言うけど、完全に橋本君の方に気持ちが傾いたわけじゃないのよ。黒崎君のことを考えている時の方が、心が痛いんだから」
響歌の心の中は相当複雑らしい。
もしかしたら私達の中で一番辛い恋愛をしているのって、響ちゃんなのかもしれない。
歩はそう思えて仕方がなかった。
「頑張ろうね、お互い」
こう、言うしかなかった。
響歌の恋の矢印は、いったいどちらを指しているのだろう。
その答えは、まだ誰も知らない。