少女達の青春群像 ~舞、その愛~
あっ、5組はここね。
舞は自分のクラスを見つけると、そのまま入らずに立ち止まった。鞄の中から鏡とブラシを取り出す。
なんたってあの御方がいらっしゃるかもしれないもの。乱れた恰好なんて見せられないわ。
左手で鏡を持ち、右手にあるブラシで少し乱れていたショートヘアを整えた。
「うん、完璧」
鏡の前で、顔を左右に向ける。
私って、左から見ても右から見てもいい女だわ。これならあの御方に会っても大丈夫ね。
準備ができたら、次は出会わなくてはいけない。舞はコホンと咳を一つすると、教室の後ろの扉に手をかけた。
「遅くなりました…ウッ!」
教室の中に足を踏み入れたその瞬間、舞の身に素晴らしい程の悪臭と怒鳴り声が襲ってきた。
「今井、入学早々遅刻するとは何事だ!」
驚いて声がした方を見ると、背広を着たビーバーが仁王立ちをしていた。その眉間には皺が寄っている。
おっと、ビーバじゃないわ。人間だった。
でも、あのオッサン、じっくり見てもビーバーにソックリ。
そのビーバー似の男性が舞の方に大股で近づいてくる。それと比例して、なんともいえない悪臭も増大した。
何よ、この悪臭と、このビーバーは。
みんな、よくこの臭いに耐えられているわね。
舞はなるべくこのビーバーと目を合わせないように教室を見渡した。その表情は憮然としたものだったが、すぐにそれが相反するものへと変わる。
「あっ」
あの御方だわ!
舞の視線の先には、さっき自転車で舞を抜かしていった彼がいた。
みんなが舞を見ている中、彼だけは俯いて何かを書いていた。舞のことなど、まったく眼中に無いようである。
舞の方は、そんな彼に釘づけ状態だった。
やっぱり私達って、運命の赤い鎖で結ばれているのよ。
「どうして初日から遅刻してきたんだ」
何度見ても、やっぱりカッコイイ!
「おい、今井」
もうすぐあの御方の恋人になれるなんて。私ってば、なんて幸せ者なのかしら。
「今井、聞いているのか!」
苛立った担任が、舞の前に立った。
えぇい、ビーバー。邪魔よ、邪魔!
そう思いながらも、実際に刃向かう勇気は舞には無い。
「はい、聞いています」
しおらしく答えると、担任が舞に顔を近づけた。
く、臭い。
「高校生活の初日だというのに、遅刻をするような生徒がいるなんて。先生は凄く恥ずかしい。僕はこのクラスを受け持ったからには、このクラスの生徒達を立派に育てて社会に送り出すつもりなんだ。しかしそんな僕の気持ちも虚しく、初日から素行の悪い生徒が出てしまった。これは本当に許しがたいことだ」
この悪臭の発生源はビーバーの頭からだ。ビーバーの七三分けに使っている整髪剤のせいに違いない。
舞は怒る担任を前にして冷静に分析していた。
それにしたって、遅刻したくらいで許しがたいだなんて大袈裟よ。
私の遅刻よりも、あんたのその頭の悪臭の方が許しがたいことでしょうが。みんなだって、きっとそう思っているわ。
「それでも今日のところは大目に見ますが、今度遅刻したら許しませんよ」
「…はい」
わかったから早く離れてよね。これ以上近くにいられると倒れてしまうでしょ。
「うむ、返事は優等生ですね。今井、君の席は右端の前から5番目だ。早く席に着きなさい」
「はい」
だーかーら、わかったから、あんたも早く教壇に戻りなさい!
舞が返事とはうらはらなことを思っていることなど気づいてもいない担任は、満足そうに教壇に戻っていった。
あ~、臭い。あのビーバー、自分が臭いっていうのがわからないのかしら。一緒にいる人達のことも少しは考えて欲しいわよ。
舞は自分のクラスを見つけると、そのまま入らずに立ち止まった。鞄の中から鏡とブラシを取り出す。
なんたってあの御方がいらっしゃるかもしれないもの。乱れた恰好なんて見せられないわ。
左手で鏡を持ち、右手にあるブラシで少し乱れていたショートヘアを整えた。
「うん、完璧」
鏡の前で、顔を左右に向ける。
私って、左から見ても右から見てもいい女だわ。これならあの御方に会っても大丈夫ね。
準備ができたら、次は出会わなくてはいけない。舞はコホンと咳を一つすると、教室の後ろの扉に手をかけた。
「遅くなりました…ウッ!」
教室の中に足を踏み入れたその瞬間、舞の身に素晴らしい程の悪臭と怒鳴り声が襲ってきた。
「今井、入学早々遅刻するとは何事だ!」
驚いて声がした方を見ると、背広を着たビーバーが仁王立ちをしていた。その眉間には皺が寄っている。
おっと、ビーバじゃないわ。人間だった。
でも、あのオッサン、じっくり見てもビーバーにソックリ。
そのビーバー似の男性が舞の方に大股で近づいてくる。それと比例して、なんともいえない悪臭も増大した。
何よ、この悪臭と、このビーバーは。
みんな、よくこの臭いに耐えられているわね。
舞はなるべくこのビーバーと目を合わせないように教室を見渡した。その表情は憮然としたものだったが、すぐにそれが相反するものへと変わる。
「あっ」
あの御方だわ!
舞の視線の先には、さっき自転車で舞を抜かしていった彼がいた。
みんなが舞を見ている中、彼だけは俯いて何かを書いていた。舞のことなど、まったく眼中に無いようである。
舞の方は、そんな彼に釘づけ状態だった。
やっぱり私達って、運命の赤い鎖で結ばれているのよ。
「どうして初日から遅刻してきたんだ」
何度見ても、やっぱりカッコイイ!
「おい、今井」
もうすぐあの御方の恋人になれるなんて。私ってば、なんて幸せ者なのかしら。
「今井、聞いているのか!」
苛立った担任が、舞の前に立った。
えぇい、ビーバー。邪魔よ、邪魔!
そう思いながらも、実際に刃向かう勇気は舞には無い。
「はい、聞いています」
しおらしく答えると、担任が舞に顔を近づけた。
く、臭い。
「高校生活の初日だというのに、遅刻をするような生徒がいるなんて。先生は凄く恥ずかしい。僕はこのクラスを受け持ったからには、このクラスの生徒達を立派に育てて社会に送り出すつもりなんだ。しかしそんな僕の気持ちも虚しく、初日から素行の悪い生徒が出てしまった。これは本当に許しがたいことだ」
この悪臭の発生源はビーバーの頭からだ。ビーバーの七三分けに使っている整髪剤のせいに違いない。
舞は怒る担任を前にして冷静に分析していた。
それにしたって、遅刻したくらいで許しがたいだなんて大袈裟よ。
私の遅刻よりも、あんたのその頭の悪臭の方が許しがたいことでしょうが。みんなだって、きっとそう思っているわ。
「それでも今日のところは大目に見ますが、今度遅刻したら許しませんよ」
「…はい」
わかったから早く離れてよね。これ以上近くにいられると倒れてしまうでしょ。
「うむ、返事は優等生ですね。今井、君の席は右端の前から5番目だ。早く席に着きなさい」
「はい」
だーかーら、わかったから、あんたも早く教壇に戻りなさい!
舞が返事とはうらはらなことを思っていることなど気づいてもいない担任は、満足そうに教壇に戻っていった。
あ~、臭い。あのビーバー、自分が臭いっていうのがわからないのかしら。一緒にいる人達のことも少しは考えて欲しいわよ。