少女達の青春群像           ~舞、その愛~
 舞は紗智とあれからすぐに別れて、響歌と一緒に宮内駅まで戻ってきたのだが…

 彼女は非常に悩んでいた。

 昨夜、中葉に言われたことを響歌に伝えるべきか、伝えないでおくか。

 いったいどちらがいいのだろう?

 真子のことがあった矢先にこんなことを伝えても、響歌を更に不機嫌にさせるだけのような気がする。

 だが、中葉にもさっき念を押されるように言われてしまった。中葉に対しては誤魔化しが効かないような気がする。近いうちに響歌に伝えなければならないのだろう。

 だったら、今伝えるべきではないの?

 いえ、伝えるべきなのよ。

 私もできるだけ早く楽になりたいのよ!

 隣にいる響歌は、今も不機嫌そうだ。

 だが、それは当たり前のことだろう。真子の高尾の想いが男子全員にバレてしまったのだ。しかもハッピーエンドではなくて玉砕確実。高尾の真子への好感度は最低最悪。彼女の恋が実る確率は0%だ。しかも今後は、そのことを男子達の間でネタにされてしまうのだろう。真子の友達であるなら誰だって不機嫌にならざるを得ない状況だ。

 それでも真子のことは真子のこと。彼女だけに構って他を投げ出してはダメだ。それに真子の問題は今日で終わったわけではない。これからずっと続いていく。

 どうせ遅かれ早かれ伝えなくてはならないことだ。それなら今伝えた方がいい。

「あの、響ちゃん」

「…何」

 思い切って響歌に声をかけると、平淡な声が返ってきた。

 その声を聞いて早くもめげそうになったが、ここで終わらせるわけにはいかない。勇気を振り絞る。

「昨日の帰りに、中葉君が言っていたんだけどね」

「………」

「中葉君、響ちゃんのことが好きなんだって」

「…は?」

「伝えておいてって、頼まれたの」

「…何考えているのよ、あの人」

「ほ、本当だよねぇ」

「ごめんなさい」

「…え?」

「伝えておいて」

 あっさり終わってしまった。

 しかもまた伝言を頼まれてしまった!

「あの、響ちゃん。やっぱり中葉君…ダメなの?」

 今まで舞と響歌は正面を向いて会話を交わしていたが、響歌が椅子から立ち上がって舞に身体を向けた。

「まっちゃんのことがあった矢先にこんなことを言われても、返事はこれしかないでしょ。それに中葉君には最初から興味が無かったの。私が好きなのは黒崎君なの!」

「う、うん、そうだよね。そうに決まっているよね。明日にでも中葉君に響ちゃんの言葉を伝えておくから!」

 舞は焦りながら響歌に同意すると、うなだれた。

 やはり想像していた通りだった。

 明日になるのがとてもとても嫌だった。
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