少女達の青春群像 ~舞、その愛~
響歌は内心、どうしていいのかわからなかった。
はっきりいって、落ち着かない。
告白された翌日に、返事もしていないのに彼の部屋にいるなんて…
普通は滅多に無いだろう。これでは告白を受けたようなものではないか。
自分の目の前にいる橋本は普段通りだった。
なんだかこうして2人でいると、昨日のことのようが嘘のように思える。
やっぱり…無かったことにしてくれないかな。
響歌は一晩考えて、橋本には自分の今の気持ちをきちんと告げると決めていた。
それなのに早くもその決心が揺らいできた。
「あの…昨日のアレ、嘘でしょ?」
試しに訊いてみた。
「いや、オレは否定しない」
返ってきた言葉は昨日の通りだった。
しかもなんと橋本が、響歌の目の前で制服を脱ぎ出したのだ。
ちょっ、いきなり何をしだすの!
「あぁ、悪かったな。着替えようとしただけだ。ちょっと向こうに行って着替えてくる」
橋本は焦る響歌に気づいて笑うと、着替えを持って部屋から出て行った。
な、なんだ、着替えるだけか。
橋本が部屋から出て行った後、響歌はどっと疲れが出てきた。
慎重に言葉を選ばなくてはいけない。ここは橋本の部屋なのだ。この手の話題は避けた方が無難だ。
あの告白を響歌が肯定してもしなくても、押し倒されたらどうにもできない。あまり彼を刺激しない方がいい。そうでなくてもさっきまでバカップルがイチャついているところを見る羽目になっていた。何かしら触発されているかもしれない。しかも客間にバカップルがいる以外、この家には誰もいないようなのだ。
条件が揃い過ぎている。
橋本はそんな人間ではないとわかってはいるが、健全な男性ということを忘れてはいけない。
響歌は別室に着替えに行った橋本のことを気にしていたが、居間に残っているバカップルの方も気になっていた。
他人の家なのだし、あまりイチャつかないように言っておいた方が良かったのではないか。
だが、今更言いに行くのも気が引けるし、今はそんなことをしている精神状態ではない。自分のことで精一杯だ。
とにかく何も気にしていないように振る舞わなければ。
そんなことを考えていると、橋本が脱いだ制服を手にして戻ってきた。上はパーカーで、下はジーンズを履いている。持っていた制服をハンガーにかけると椅子に座った。
響歌はそこから少し離れてストーブの傍に座っている。とはいっても今日は冬にしては暖かいのでストーブは着いていないのだけど。
響歌が見ている前で、橋本は机の引き出しの中からレポート用紙を取り出した。一枚だけではなくて四、五枚くらいある感じだった。
「何よ、それ?」
響歌が訊くと、橋本はレポート用紙を仰ぐように振った。
「あぁ、これは今までの小長谷さんに対する気持ちを書いたものだよ」
「…は?」
橋本はさらっと凄いことを言ったような気がする。
いや、気がするじゃない。確実に言ったわよ!
橋本君ってば、そんなものを書いていたんだ。
あれ、でも、それを私に教えたということは、見てもいいということ…だよね?
ここからだとはっきりとはわからないけど、かなりぎっしり書いてあるようだった。
あんなにたくさん、何を書くことがあるのだろう?
「見せて」
響歌が右手を出したけど、橋本はレポート用紙を渡してくれなかった。
かといって引き出しに戻す気配も無い。
まぁ、この様子じゃ、素直に見せてはくれないか。
でも、それならなんでわざわざ私に見せたのだろう。しかも未だに手に持っているし。
見せる気が無いのなら、早く片づけたらいいのに。
怪訝に思っている響歌の前で、橋本がいきなりレポート用紙を破り出した。
「えぇっ、ちょっと、何をしているのよ!」
響歌は慌てたが、橋本はレポート用紙を細かく破っていく。
橋本君ってば、本当に何を考えているのよ。せっかく書いたものを破るなんて。しかもそのままゴミ箱に捨ててしまったわよ。
「ねぇ、どうして。せっかく書いたのに捨てるなんてもったいないじゃない。そんなにも私に見られるのが嫌だったの?」
でも…今はそこまで強要はしなかったと思うのだけど。
「まぁ、もう捨てるつもりだったからな」
「そうはいっても、せっかく書いたのに…」
捨てるなんて、やっぱりもったいない。
響歌は惜しい気持ちでゴミ箱を覗き込む。
その行動に、今度は橋本が慌てた。
「おい、勝手に人の家のゴミ箱を漁るな!」
急いで響歌からゴミ箱を取り上げる。
「だって…気になるんだもの」
響歌にはやはり橋本の行動が理解できなかった。
わざわざ見せるような行動をされたら余計気になってしまう。見られたくないのなら、わざわざ見せずにこっそり捨てたら良かったじゃない。
橋本君って、本当にわからない男だわ。
響歌が不満に思っているのがわかったのだろう。橋本はゴミ箱から破り捨てた残骸の一つを取り出すと、それを響歌に渡した。
「ほら、これなら見ていいぞ」
見ていいって言っても、どうせ内容は他愛もないことなんでしょ。
例えば日付だけとか、ページ数だとか。
そう思いながら渡された切れ端を見てみる。
そこで響歌の動きが止まった。
何よ、これ。こんなものを私に見せて良かったの?
そこには橋本の字で『好きで、たまらなく好きで』と書かれてあった。
橋本が響歌の手からその残骸を取り、再びゴミ箱に捨てた。
その間も、響歌は固まっていた。
あの残骸の中から選んだということは、あれが一番私に見せてもいい内容だったということよね。
でも…なんでよりにもよってアレなの?
レポート用紙四、五枚の中から選んだのが、アレ?
だったら他の残骸には何が書いてあるのよ!
「もっと見せて」
響歌にとっては当然の言葉だったが、橋本は応じない。
「もうダメ」
「なんで!」
「あれが一番まともだから」
あれが一番まともって!
だったら後は、小長谷さんとヤリたいといったことが書いてあるということじゃない。
本当にそういったことが書いてあるとは限らないが、深く追及しない方が良さそうだ。
響歌はこれ以上の追及は止めて、机の端に置いてある分厚いものを指さした。
「じゃあ、今度はあれを見せてよ。あれって、アルバムでしょ」
これはやっぱり人の部屋に来た楽しみの一つで、定番なものでしょう。しかも中にあるのは橋本君の少年時代。これはもう絶対に見ておきたい!
アルバムを見るだけなら変な雰囲気にならないはずだしね。
橋本の方もそれだったらいいらしく、響歌にアルバムを渡した。
「わーい、ありがとう!」
わざと無邪気に言って、橋本からアルバムを受け取る響歌。橋本も響歌の傍に座り、一緒にアルバムを覗き込んだ。
響歌は橋本が自分の近くに来るとは思わなかったので最初は焦ったものの、できるだけ無邪気に振る舞い、和やかな雰囲気を作ろうと頑張った。バカなことを言ってよく頭を叩かれたが、変な雰囲気になるよりはマシだと我慢した。
そんな響歌の作戦は成功した。和やかな雰囲気のままで部屋を後にできたのである。
部屋を出る時に橋本に言われたことが少し気になったが…今はもうそれでいいと思った。
最初に気づいたのは舞だった。
「あれ、中葉君。響ちゃんと橋本君がこっちにやってくるよ」
仙田駅に向かって歩いていた中葉は、舞の言葉に後ろを振り返った。
舞の言う通り、響歌と橋本が駅に向かっていた。しかも歩いてではなくて、橋本の自転車で2人乗りをしている。
中葉はなんだか羨ましくなった。
「こうして見ると、あの2人もカップルに見えるなぁ。先に帰ったことにもう気づかれたのは残念だけど。なんだか幸せそうに見えるし、今日のところはこれでいいか。オレもムッチーと2人乗りがしたくなってきたよ」
「やだぁ、中葉君ったらぁ」
舞はテレたが、それも悪くないと思ってしまった。
だって自転車の2人乗りなんて、これこそ学生時代のおつき合いっていう感じなんだもの。
うん、青春を謳歌するなら2人乗りも経験しておかないとね!
やはりバカップルな2人だった。
そうしてバカップルとカップルもどきの2組は、3時間ぶりに合流したのである。
はっきりいって、落ち着かない。
告白された翌日に、返事もしていないのに彼の部屋にいるなんて…
普通は滅多に無いだろう。これでは告白を受けたようなものではないか。
自分の目の前にいる橋本は普段通りだった。
なんだかこうして2人でいると、昨日のことのようが嘘のように思える。
やっぱり…無かったことにしてくれないかな。
響歌は一晩考えて、橋本には自分の今の気持ちをきちんと告げると決めていた。
それなのに早くもその決心が揺らいできた。
「あの…昨日のアレ、嘘でしょ?」
試しに訊いてみた。
「いや、オレは否定しない」
返ってきた言葉は昨日の通りだった。
しかもなんと橋本が、響歌の目の前で制服を脱ぎ出したのだ。
ちょっ、いきなり何をしだすの!
「あぁ、悪かったな。着替えようとしただけだ。ちょっと向こうに行って着替えてくる」
橋本は焦る響歌に気づいて笑うと、着替えを持って部屋から出て行った。
な、なんだ、着替えるだけか。
橋本が部屋から出て行った後、響歌はどっと疲れが出てきた。
慎重に言葉を選ばなくてはいけない。ここは橋本の部屋なのだ。この手の話題は避けた方が無難だ。
あの告白を響歌が肯定してもしなくても、押し倒されたらどうにもできない。あまり彼を刺激しない方がいい。そうでなくてもさっきまでバカップルがイチャついているところを見る羽目になっていた。何かしら触発されているかもしれない。しかも客間にバカップルがいる以外、この家には誰もいないようなのだ。
条件が揃い過ぎている。
橋本はそんな人間ではないとわかってはいるが、健全な男性ということを忘れてはいけない。
響歌は別室に着替えに行った橋本のことを気にしていたが、居間に残っているバカップルの方も気になっていた。
他人の家なのだし、あまりイチャつかないように言っておいた方が良かったのではないか。
だが、今更言いに行くのも気が引けるし、今はそんなことをしている精神状態ではない。自分のことで精一杯だ。
とにかく何も気にしていないように振る舞わなければ。
そんなことを考えていると、橋本が脱いだ制服を手にして戻ってきた。上はパーカーで、下はジーンズを履いている。持っていた制服をハンガーにかけると椅子に座った。
響歌はそこから少し離れてストーブの傍に座っている。とはいっても今日は冬にしては暖かいのでストーブは着いていないのだけど。
響歌が見ている前で、橋本は机の引き出しの中からレポート用紙を取り出した。一枚だけではなくて四、五枚くらいある感じだった。
「何よ、それ?」
響歌が訊くと、橋本はレポート用紙を仰ぐように振った。
「あぁ、これは今までの小長谷さんに対する気持ちを書いたものだよ」
「…は?」
橋本はさらっと凄いことを言ったような気がする。
いや、気がするじゃない。確実に言ったわよ!
橋本君ってば、そんなものを書いていたんだ。
あれ、でも、それを私に教えたということは、見てもいいということ…だよね?
ここからだとはっきりとはわからないけど、かなりぎっしり書いてあるようだった。
あんなにたくさん、何を書くことがあるのだろう?
「見せて」
響歌が右手を出したけど、橋本はレポート用紙を渡してくれなかった。
かといって引き出しに戻す気配も無い。
まぁ、この様子じゃ、素直に見せてはくれないか。
でも、それならなんでわざわざ私に見せたのだろう。しかも未だに手に持っているし。
見せる気が無いのなら、早く片づけたらいいのに。
怪訝に思っている響歌の前で、橋本がいきなりレポート用紙を破り出した。
「えぇっ、ちょっと、何をしているのよ!」
響歌は慌てたが、橋本はレポート用紙を細かく破っていく。
橋本君ってば、本当に何を考えているのよ。せっかく書いたものを破るなんて。しかもそのままゴミ箱に捨ててしまったわよ。
「ねぇ、どうして。せっかく書いたのに捨てるなんてもったいないじゃない。そんなにも私に見られるのが嫌だったの?」
でも…今はそこまで強要はしなかったと思うのだけど。
「まぁ、もう捨てるつもりだったからな」
「そうはいっても、せっかく書いたのに…」
捨てるなんて、やっぱりもったいない。
響歌は惜しい気持ちでゴミ箱を覗き込む。
その行動に、今度は橋本が慌てた。
「おい、勝手に人の家のゴミ箱を漁るな!」
急いで響歌からゴミ箱を取り上げる。
「だって…気になるんだもの」
響歌にはやはり橋本の行動が理解できなかった。
わざわざ見せるような行動をされたら余計気になってしまう。見られたくないのなら、わざわざ見せずにこっそり捨てたら良かったじゃない。
橋本君って、本当にわからない男だわ。
響歌が不満に思っているのがわかったのだろう。橋本はゴミ箱から破り捨てた残骸の一つを取り出すと、それを響歌に渡した。
「ほら、これなら見ていいぞ」
見ていいって言っても、どうせ内容は他愛もないことなんでしょ。
例えば日付だけとか、ページ数だとか。
そう思いながら渡された切れ端を見てみる。
そこで響歌の動きが止まった。
何よ、これ。こんなものを私に見せて良かったの?
そこには橋本の字で『好きで、たまらなく好きで』と書かれてあった。
橋本が響歌の手からその残骸を取り、再びゴミ箱に捨てた。
その間も、響歌は固まっていた。
あの残骸の中から選んだということは、あれが一番私に見せてもいい内容だったということよね。
でも…なんでよりにもよってアレなの?
レポート用紙四、五枚の中から選んだのが、アレ?
だったら他の残骸には何が書いてあるのよ!
「もっと見せて」
響歌にとっては当然の言葉だったが、橋本は応じない。
「もうダメ」
「なんで!」
「あれが一番まともだから」
あれが一番まともって!
だったら後は、小長谷さんとヤリたいといったことが書いてあるということじゃない。
本当にそういったことが書いてあるとは限らないが、深く追及しない方が良さそうだ。
響歌はこれ以上の追及は止めて、机の端に置いてある分厚いものを指さした。
「じゃあ、今度はあれを見せてよ。あれって、アルバムでしょ」
これはやっぱり人の部屋に来た楽しみの一つで、定番なものでしょう。しかも中にあるのは橋本君の少年時代。これはもう絶対に見ておきたい!
アルバムを見るだけなら変な雰囲気にならないはずだしね。
橋本の方もそれだったらいいらしく、響歌にアルバムを渡した。
「わーい、ありがとう!」
わざと無邪気に言って、橋本からアルバムを受け取る響歌。橋本も響歌の傍に座り、一緒にアルバムを覗き込んだ。
響歌は橋本が自分の近くに来るとは思わなかったので最初は焦ったものの、できるだけ無邪気に振る舞い、和やかな雰囲気を作ろうと頑張った。バカなことを言ってよく頭を叩かれたが、変な雰囲気になるよりはマシだと我慢した。
そんな響歌の作戦は成功した。和やかな雰囲気のままで部屋を後にできたのである。
部屋を出る時に橋本に言われたことが少し気になったが…今はもうそれでいいと思った。
最初に気づいたのは舞だった。
「あれ、中葉君。響ちゃんと橋本君がこっちにやってくるよ」
仙田駅に向かって歩いていた中葉は、舞の言葉に後ろを振り返った。
舞の言う通り、響歌と橋本が駅に向かっていた。しかも歩いてではなくて、橋本の自転車で2人乗りをしている。
中葉はなんだか羨ましくなった。
「こうして見ると、あの2人もカップルに見えるなぁ。先に帰ったことにもう気づかれたのは残念だけど。なんだか幸せそうに見えるし、今日のところはこれでいいか。オレもムッチーと2人乗りがしたくなってきたよ」
「やだぁ、中葉君ったらぁ」
舞はテレたが、それも悪くないと思ってしまった。
だって自転車の2人乗りなんて、これこそ学生時代のおつき合いっていう感じなんだもの。
うん、青春を謳歌するなら2人乗りも経験しておかないとね!
やはりバカップルな2人だった。
そうしてバカップルとカップルもどきの2組は、3時間ぶりに合流したのである。