少女達の青春群像 ~舞、その愛~
舞は不安そうに中葉を見た。
「ねぇ、ここはいったいどこなの?」
周囲を見渡しても、真っ暗で何もわからない。わかるのは柏原駅内にある部屋の一つということだけだ。
「この部屋は、昼間は柏原市の歴史展示場になっているんだ。展示は午後6時で終了するんだけど、部屋の鍵はいつも終電まで空いているみたいだったから。今日もそうかなと思って来てみたんだけど、やっぱりそうだった。始発までこの部屋の奥にいよう」
さすが中葉君。外で野宿するよりも、ここならまだ暖かくして過ごせられるわ。
この部屋の存在を知っていたから終電で帰るなと言ったのね。駅員さんにも見つかり難そうな場所だし、かなりの穴場ポイントだわ。
中葉は舞の手を引いて奥の部屋に行った。
この部屋には椅子も机も無い。ガラスケースらしきものが何個か置いてあるだけだ。展示場とはいっても、電車の待ち時間にちょっと見てみようというくらいのものらしい。
奥まで行くと、中葉は躊躇せずに床に腰を下ろした。舞の方は少し戸惑ったが、座れそうなところがどこにも無かったので中葉の隣に腰を下ろした。
「中葉君、素晴らしいわ。ここなら一晩暖かくして過ごせられるわね」
舞の感激した様子に、中葉は満足そうだ。
中葉の腕が舞の腰へとまわる。そのまま中葉は舞を引き寄せた。
「こうしているともっと暖かくなるよ、ムッチー。いや…舞」
名前を呼ばれた瞬間、舞の顔が赤くなった。
い、今、中葉君が『舞』って呼んでくれた!
最初の頃は『ムッチー』という呼び名が嫌だったが、ずっと呼ばれ続けていた。お陰で、今ではもう既にその呼び名に慣れてしまっていた。
それなのにここにきて、再び『舞』と呼ばれる日が来るなんて!
しかも呼んでくれたのは、舞が愛する中葉だ。
舞は感激して泣けてきそうだった。
暗い中だからか、中葉は舞の様子に気づかなかった。それどころか何かを思い出したらしく、妙な声を上げる。
「あぁっ、そうだった。このデートの前、松村さんに恋人同士がしなければならないことを教えてもらったんだった」
舞の目から涙が引く。
「えっ、何を教えてもらったの?」
「どうやら恋人同士になったら試練を乗り越えていかなければならないらしいんだ。その乗り越えていかなければならないことをABCで表すんだけどさぁ。まずAは接吻のことなんだけど、これを乗り越えて2人はようやく本物の恋人同士になるらしいんだ」
舞は卒倒しそうになった。
試練って、接吻って!
「なんだったら、今ここで…あれ、舞。どうしたの?」
これじゃ、ムードの欠片も無い!
私の空想の中で生きる中葉君は、私にそんなことを言った覚えは無いわ。
そもそもそういうのって、口に出して言うべきことじゃないでしょ。
ムードに流されて…というのが本当なんじゃ…
いいえ、中葉君にとっては、きっとこれが一番いいやり方なのよ。
女性の気持ちを聞かずに唇を奪う行為なんて、優しい中葉君にできるわけがないじゃない。口づけをキスと言わずに接吻と言うところも彼らしくていいじゃないの。これこそ日本男児の本来のあり方よ。
だいたい今なんて、みんな欧米化されていてダメなのよ。ところ構わずブチュッ、ブチュッしているんだもの。日本の良き伝統である恥じらいというものが無くなっているわ。
その点、中葉君は偉いわ。凄く私に気を遣ってくれているんだもの。
さすが中葉君よね。
舞は気を取り直して中葉に向かった。
「いいわ、中葉君。私も中葉君と本物の恋人同士になりたいもの。早く接吻をして」
舞が目を閉じると、中葉の乾いた唇が舞のそれに重なった。
あぁ…これで私達は本物の恋人同士になったのね。
舞が感激した、その時だった。
すぐ離れるだろうと思っていた中葉の唇が、触れるどころかより一層強く舞の唇に押しつけられた。
舞は苦しくなり、少し口を開ける。そこに中葉の舌がこじ開けるようにして入ってきた。
驚きのあまり両目を開けてしまう。
古風な中葉君のはずなのに、どうしてしまったの!
第一段は立派にクリアしたはずよ。そっと優しく、いたわるように…という感じで私達はキスを終えたでしょ。
ファーストキスはレモンの味と決まっているのよ。こんなナマコみたいな感触のキスなんてまだまだ先のはずよ!
舞が混乱している間も、中葉の舌は舞の口の中を犯していた。それに伴い気分が向上していく。
あぁ、中葉君。
もっと…もっとして頂戴。
我慢できなくなり、舞の方からも舌を絡めようとする。
その時、それを避けるかのように中葉の顔が舞から離れた。
盛り上がりかけていた舞の方は、いきなりの放置に呆然となるしかない。
対する中葉は、とても満足そうだった。
まぁ、中葉君が満足したのなら、これだけでもいいか。
舞が呆然としながらもそう思い、納得しかけた時だった。
「これでAは終ったね。でね、舞。次のBというのが、裸になってお互いの身体を触る行為らしいんだ。これはAをしながらだとより一層燃えてくるんだって。恋人同士の第二段階として…」
まさか中葉君ってば、今夜だけで一気に第三段階まで進むつもり?
しかも段階ごとに一休みして、私の許可を貰って?
あのね、中葉君。恋愛というものには確かに段階があるんだけどね。
こうやって休み休みで一気にCまで突っ走るのは、ムード的にも段階的にもどうなのかと思うのだけど…
そういえば中葉君は、このことを松村さんに教えてもらったと言っていたわ。
まったく松村さんってば、中葉君になんていうことを教えてしまったのよ。
中葉君は純粋な人なのよ。教えられたらその通りにしてしまうじゃない!
舞は頭を抱えたくなってしまった。理想と現実の差が激し過ぎてどうしていいのかわからない。
だが、さっきの口づけで舞の身体はまだ火照っていた。あれだけじゃ、足りない。そう、身体が言っている。しかも中葉の両目が舞を誘っている。
またもや舞は本能に負けてしまった。
もう、どうなってもいい。
今度は舞の方から中葉に抱きついた。
「いいわよ、中葉君。第二段階でも第三段階でもいいから、私に構わずにして。早く2人で完全な恋人同士になりましょう」
中葉は舞の言葉に感激した。襲うように再び舞に口づける。
あぁ…ごめんなさい、父さん、母さん。
舞は今夜、大人になります!
暗闇の中で、二つの影が倒れ込んだ。
「ねぇ、ここはいったいどこなの?」
周囲を見渡しても、真っ暗で何もわからない。わかるのは柏原駅内にある部屋の一つということだけだ。
「この部屋は、昼間は柏原市の歴史展示場になっているんだ。展示は午後6時で終了するんだけど、部屋の鍵はいつも終電まで空いているみたいだったから。今日もそうかなと思って来てみたんだけど、やっぱりそうだった。始発までこの部屋の奥にいよう」
さすが中葉君。外で野宿するよりも、ここならまだ暖かくして過ごせられるわ。
この部屋の存在を知っていたから終電で帰るなと言ったのね。駅員さんにも見つかり難そうな場所だし、かなりの穴場ポイントだわ。
中葉は舞の手を引いて奥の部屋に行った。
この部屋には椅子も机も無い。ガラスケースらしきものが何個か置いてあるだけだ。展示場とはいっても、電車の待ち時間にちょっと見てみようというくらいのものらしい。
奥まで行くと、中葉は躊躇せずに床に腰を下ろした。舞の方は少し戸惑ったが、座れそうなところがどこにも無かったので中葉の隣に腰を下ろした。
「中葉君、素晴らしいわ。ここなら一晩暖かくして過ごせられるわね」
舞の感激した様子に、中葉は満足そうだ。
中葉の腕が舞の腰へとまわる。そのまま中葉は舞を引き寄せた。
「こうしているともっと暖かくなるよ、ムッチー。いや…舞」
名前を呼ばれた瞬間、舞の顔が赤くなった。
い、今、中葉君が『舞』って呼んでくれた!
最初の頃は『ムッチー』という呼び名が嫌だったが、ずっと呼ばれ続けていた。お陰で、今ではもう既にその呼び名に慣れてしまっていた。
それなのにここにきて、再び『舞』と呼ばれる日が来るなんて!
しかも呼んでくれたのは、舞が愛する中葉だ。
舞は感激して泣けてきそうだった。
暗い中だからか、中葉は舞の様子に気づかなかった。それどころか何かを思い出したらしく、妙な声を上げる。
「あぁっ、そうだった。このデートの前、松村さんに恋人同士がしなければならないことを教えてもらったんだった」
舞の目から涙が引く。
「えっ、何を教えてもらったの?」
「どうやら恋人同士になったら試練を乗り越えていかなければならないらしいんだ。その乗り越えていかなければならないことをABCで表すんだけどさぁ。まずAは接吻のことなんだけど、これを乗り越えて2人はようやく本物の恋人同士になるらしいんだ」
舞は卒倒しそうになった。
試練って、接吻って!
「なんだったら、今ここで…あれ、舞。どうしたの?」
これじゃ、ムードの欠片も無い!
私の空想の中で生きる中葉君は、私にそんなことを言った覚えは無いわ。
そもそもそういうのって、口に出して言うべきことじゃないでしょ。
ムードに流されて…というのが本当なんじゃ…
いいえ、中葉君にとっては、きっとこれが一番いいやり方なのよ。
女性の気持ちを聞かずに唇を奪う行為なんて、優しい中葉君にできるわけがないじゃない。口づけをキスと言わずに接吻と言うところも彼らしくていいじゃないの。これこそ日本男児の本来のあり方よ。
だいたい今なんて、みんな欧米化されていてダメなのよ。ところ構わずブチュッ、ブチュッしているんだもの。日本の良き伝統である恥じらいというものが無くなっているわ。
その点、中葉君は偉いわ。凄く私に気を遣ってくれているんだもの。
さすが中葉君よね。
舞は気を取り直して中葉に向かった。
「いいわ、中葉君。私も中葉君と本物の恋人同士になりたいもの。早く接吻をして」
舞が目を閉じると、中葉の乾いた唇が舞のそれに重なった。
あぁ…これで私達は本物の恋人同士になったのね。
舞が感激した、その時だった。
すぐ離れるだろうと思っていた中葉の唇が、触れるどころかより一層強く舞の唇に押しつけられた。
舞は苦しくなり、少し口を開ける。そこに中葉の舌がこじ開けるようにして入ってきた。
驚きのあまり両目を開けてしまう。
古風な中葉君のはずなのに、どうしてしまったの!
第一段は立派にクリアしたはずよ。そっと優しく、いたわるように…という感じで私達はキスを終えたでしょ。
ファーストキスはレモンの味と決まっているのよ。こんなナマコみたいな感触のキスなんてまだまだ先のはずよ!
舞が混乱している間も、中葉の舌は舞の口の中を犯していた。それに伴い気分が向上していく。
あぁ、中葉君。
もっと…もっとして頂戴。
我慢できなくなり、舞の方からも舌を絡めようとする。
その時、それを避けるかのように中葉の顔が舞から離れた。
盛り上がりかけていた舞の方は、いきなりの放置に呆然となるしかない。
対する中葉は、とても満足そうだった。
まぁ、中葉君が満足したのなら、これだけでもいいか。
舞が呆然としながらもそう思い、納得しかけた時だった。
「これでAは終ったね。でね、舞。次のBというのが、裸になってお互いの身体を触る行為らしいんだ。これはAをしながらだとより一層燃えてくるんだって。恋人同士の第二段階として…」
まさか中葉君ってば、今夜だけで一気に第三段階まで進むつもり?
しかも段階ごとに一休みして、私の許可を貰って?
あのね、中葉君。恋愛というものには確かに段階があるんだけどね。
こうやって休み休みで一気にCまで突っ走るのは、ムード的にも段階的にもどうなのかと思うのだけど…
そういえば中葉君は、このことを松村さんに教えてもらったと言っていたわ。
まったく松村さんってば、中葉君になんていうことを教えてしまったのよ。
中葉君は純粋な人なのよ。教えられたらその通りにしてしまうじゃない!
舞は頭を抱えたくなってしまった。理想と現実の差が激し過ぎてどうしていいのかわからない。
だが、さっきの口づけで舞の身体はまだ火照っていた。あれだけじゃ、足りない。そう、身体が言っている。しかも中葉の両目が舞を誘っている。
またもや舞は本能に負けてしまった。
もう、どうなってもいい。
今度は舞の方から中葉に抱きついた。
「いいわよ、中葉君。第二段階でも第三段階でもいいから、私に構わずにして。早く2人で完全な恋人同士になりましょう」
中葉は舞の言葉に感激した。襲うように再び舞に口づける。
あぁ…ごめんなさい、父さん、母さん。
舞は今夜、大人になります!
暗闇の中で、二つの影が倒れ込んだ。