少女達の青春群像           ~舞、その愛~

災難は、忘れた頃にやってくる

「響ちゃん、最近は放課後残らないね。橋本君とも話していないみたいだけど、何かあったの?」

 舞は響歌に訊ねながらも、同時にホットケーキをほおばっている。

 響歌は呆れ果ててそれを見ていた。

「ムッチーさぁ、口は一つしかないんだから、食べるかしゃべるかのどちらかにしなさいよ」

「だってお腹が空いているから早く食べたいし、響ちゃんに言いたいことも多くって」

 これが恋する乙女の姿なのだろうか。

 とてもじゃないけどそうは見えない。彼がいるとはいっても、まだまだ色気より食い気の方が勝っているようだ。

 だが、響歌の方もお腹は空いている。舞の質問には答えずに野菜サンドを口に入れた。

 少しの間、2人の間に沈黙が漂う。

 ここは宮内駅前にある喫茶店『カトレア』。最近になって見つけた店なのだが、値段もお得だし、他校生の姿はたまに見るが、比良木の生徒はいない。内緒話をするにはうってつけの場所だった。

 舞と響歌はその喫茶店の窓側の席に座り、昼食をとっていた。

 今日は土曜日で学校は休みのはずなのだが、今日も午前中に講習があったのだ。

 いつもならその後は中葉が舞を独占するのだが、今日は用事があるらしく早々と帰っていった。だから久々にゆっくり響歌と2人で女同士の時間を楽しんでいた。

 中葉君と一緒にいるのもドキドキして楽しいんだけど、やっぱり友達思いの私としては、女同士の時間も大切だからね。

 それに女同士だと気を遣わなくて済むから楽なのよ。中葉君の前ではこうやって大きな口を開けて食事なんてできないもの。

 やっぱり恋する乙女としては、そんなおばさんみたいな食べ方なんて愛する人に見せられないからね。

 それに中葉君って、健康の為には就寝時間もたっぷり取らなきゃいけないってことで、一緒にいても寝ている時が多いんだもの。私、ちょっとつまらない。

 少しずつだが、確実に舞の中で中葉への不満が募っていっていた。

 舞はそんな不満を無意識のうちに食べものにぶつけていた。

「このホットケーキの五段重ね、本当に美味しいよ。繋ぎになっている生クリームも絶品だし、これを考えた人は凄いよね。このチーズトーストも最高だわ。はぐっ…ほぐっ…もぐっ…うっ!」

 喉に詰まり、慌ててオレンジジュースで流し込む。

 そんな舞の姿を見て、響歌は溜息を吐いた。

「そんなに慌てて食べたら作った人に失礼よ。もっとよく噛んで、じっくりと味を楽しまなくちゃ。中葉君がいないからといって、ちょっと汚く食べ過ぎよ。そんな姿を知られて、彼に振られても知らないからね」

 容赦のない言葉が舞の心臓に突き刺さった。

「縁起でもないことを言わないでよ。そんなこと、あるわけないじゃない。今日の『愛の交換日記』にだって、新婚旅行のことと子供のことが書いてあるんだから」

 舞が『愛の交換日記』を響歌に渡した。読んでみろ、ということである。

 響歌はそれを受け取り、読んでみた。

 その顔が、段々と呆れたものへと変わる。

「あんたさぁ、これ、ちゃんと読んでいるの?新婚旅行は自転車で行くと書いてあるじゃない。しかも結婚式はしないって。最近では挙式しないカップルも増えているみたいだけど、中葉君の理由って…何よ、これ。お金がもったいないからって堂々と書いてあるわよ。あんた、ちゃんと愛されているの?」

 響歌は中葉の書いた文面を指さすと、舞に『愛の交換日記』を返した。

 舞はそれを受け取りながら響歌に反論する。

「愛されているに決まっているじゃない。その証拠に、明日も私の地元でデートをするのよ。それにね、響ちゃん。新婚旅行を自転車で行くのは健康の為だし、結婚式をしないのは確かにお金がもったいないからだけど、それは将来を見据えてのことなのよ。無駄遣いをするよりも、そのお金を自分達の生活費にあてた方がいいってね。響ちゃんにはそんな中葉君の将来設計図が理解できないの?」

 そんなもの、理解したくもない。

 響歌はそう思ったけど、話がこじれそうなので口にはしなかった。

「それよりもさ、明日も中葉君とデートするみたいだけど、今回もレポートにさせちゃうの?それだとまた見世物になってしまうけど」

 レポート!

 あの、忌まわしい初デートのレポート!

 初デートを記録するのはいいけど、それを響ちゃんや松村さんに見せるなんてとんでもない。少しは乙女心をわかって欲しいわよ。

 あんなものを見せるなんて恥ずかしいに決まっているじゃない!

 あのレポートは、響歌に手渡されて舞も読んでみた。

 まぁ、読む前にも、詳しく書いてあるんだろうとは予想していたわよ。

 でも、まさかあそこまで詳細に書いてあるなんて!
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