少女達の青春群像           ~舞、その愛~
 舞は見間違いかと思って響歌の方を見たが、彼女も舞と同じく驚いた様子だ。どうやら見間違いではないらしい。

 2人が呆然として見ている中、真子はおどおどしながら周囲を見渡している。そんな姿も真子そのものだ。

 誰かと待ち合わせでもしているのだろうか。それなら声をかけずにいた方がいいのかなぁ。

 舞はそう思ったが、響歌の方は違った。大きな声で真子を呼ぶ。

「まっちゃーん、まっちゃんでしょ。そんなところで突っ立っていないで、こっちに来たら?」

 響歌の声が真子に届いたらしい。声に気づいた真子はホッとした表情になり、舞達のテーブルにやってきた。

「響ちゃんに、ムッチー。やっぱりこの店で合っていたんだ。2人がいなかったらどうしようかと思ったよ」

「まぁ、いいから座りなよ。取り敢えず何か頼む?」

 響歌は自分の隣の席を真子に勧め、メニュー表を彼女に渡した。

 真子は言われるままに響歌の隣に座り、メニューを受け取った。そしてチキンライスとストレートティーを注文すると、ようやく一息吐いたという感じで水を飲んだ。

 舞が不思議そうに声をかける。

「いったいどうしたのよ。まっちゃんはさっちゃん達と一緒に帰ったんだと思っていたんだけど。ここで誰かと待ち合わせをしているの。それとも本当に私達がいると思ってここに来たの?」

 もしそうなら、私達がいなかった場合どうしたのだろう?

 確かに私と響ちゃんは放課後にカトレアに行こうと話していたけど、本当に行くとは限らない。しかもまっちゃんは、この店どころか宮内駅にも来たことが無いはずだ。

 それなのによくここまで来ようと思ったよね。しかも1人だけで!

 まさかさっちゃんと歩ちゃんも、隠れてどこかに…いるわけないか。

「待ち合わせはしていないよ。ちょっとムッチーと響ちゃんに話したいことがあってここに来てみたんだ。2人共、スマホの電源を切ったままだったみたいだから、会えるかどうかわからなかったんだけどね」

 そういえば話に夢中でスマホを見るのを忘れていた!

 舞が慌てて鞄からスマホを取り出すと、画面は真っ暗な状態のままだった。響歌の方も同様だ。

 比良木高校はスマホを持ってきていいことにはなっているが、学校の中では電源を落としておくことになっている。だから2人は電車から降りた時に電源を切っていたのだ。

 ちなみに中葉は、普段はスマホを学校に持ってきてもいない。その反面、この間の画像事件のように突然持ってきて電源を入れたままにしている時もあるのだけど。

 それでも皆、見つかるとスマホ没収の上、反省文を書かなくてはいけなくなるので、学校に持ってきてもできるだけ電源を入れないようにしている。その電源が再び入るのは大抵帰りの電車の中だった。

「ごめんね、今日も電源を入れるのを忘れていたよ。それにしてもわざわざここまで来るなんて。もしかしてまっちゃんの話って、学校では話しにくい内容なの?」

 響歌が謝りながらも訊いてみると、真子は少し考えてから言った。

「う~ん…学校でもいいんだけどね。そこだと落ち着いて話せないだろうから。4人を前にして…というのも、ちょっと気が引けるし。だからまずは男の人とつき合ったことのある響ちゃんとムッチーに相談してみようと思ったんだ」

 真子の前に、注文したチキンライスとアイスティーが運ばれてきた。

 早速、真子がチキンライスの方を一口食べる。

「うん、美味しい。ムッチーの言う通りの美味しさだし、値段も安いんだね。柏原にある喫茶店では考えられない値段だよ」

 まぁ、このお店の値段は、確かに学生にとってはありがたい値段だし、味も格別なんだけどね。

 今はそういう感想が聞きたいのではなくて、早く相談の内容を教えて欲しいのだけど。

 でも…つき合った経験があるということは、そういった方面の話ではあるのよね。

 そういった方面というのは、いわゆる男関係の話で。

 まっちゃんの男関係といえば、高尾君関係の話…で?

 えぇっー!

 舞は叫びたい心境だった。前にいる響歌も、見当がついたのか参ったといったような表情をしている。

 何も知らない真子は、チキンライスを食べながら話し始めた。

「実は高尾君のことなんだ」

 …やっぱり。

「た、高尾君がどうかしたの。もしかして高尾君に対する心境が変化した…とか?」

 少しの希望を持って訊いてみたが、その希望はあっさりと打ち砕かれる。

「心境の変化って、何。高尾君への想いが他の誰かに変わるっていうこと?そんなの、あるわけないじゃない」

 そうか、そうなのか。

 響歌が希望が崩れ去って愕然となっている舞を横目で見ながら真子に向かう。
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