少女達の青春群像 ~舞、その愛~
そうと決まれば、早く帰ろうと自分の席に向かった舞の背に、歌うような感じで声がかけられた。
「ま、い~」
この声は! 聞き覚えのある声に、すぐに後ろを振り返る。
やっぱり…
「響ちゃん!」
「あらまぁ、救いの女神発見!っていう顔をしちゃって。見ていたわよ、さっきのやり取り。一部始終、しっかりとね」
響ちゃんと呼ばれた女子生徒はとても可笑しそうだった。
彼女の名前は葉月響歌。舞と紗智の友達の1人で、舞の登下校の友でもあった。
「響ちゃん、会えて嬉しいよ~。でも、やけに戻って来るのが早かったね。そんなに早いなら、あと15分くらい早く帰ってきてくれたらよかったのに…って、それはさすがに無理だよね。うん、ごめん、この言葉は忘れて」
さっきのことを思い、つい無茶なことを付け加えてしまったが、さすがにそれは無理だとわかるのですぐに謝る。
響歌は授業が終わるなり、足りなくなった模造紙を買いに行ったのだ。
だけどこの学校の周辺には画材屋どころかお店の一つも無い。何かを買うのなら駅前まで行かなくてはいけない。その駅前には、徒歩で往復1時間はかかってしまう。
さっきのやり取りを見ていたということは30分くらいで戻ってきたことになる。響ちゃんの足が…特に逃げ足が早いことは知っているけど、ここまで早く走れるものなのだろうか?
舞は不思議でたまらなかったが、響歌はなんでもないことのように答える。
「隣のクラスの友達から自転車を借りてぶっ飛ばしただけよ。しなくちゃならないことがまだまだ沢山あるからね」
あっ、その手があったんだ。ということは時間通りだったというわけか。
文化祭の準備はまだ終わってはいない。それどころかこれからが本番だというかのように山積みになっている状態だ。
そんな状態のまま先に帰るのは、本当のところをいうと舞もしたくは無い。
だってそんなことをしたら目立ってしまうもの!
良い風に目立つのも嫌なのに、悪いことで目立つなんてとんでもないわ。
響ちゃんも戻ってきたことだし、やっぱり残っていようかな。
「いやぁ、それにしたって戻ってきた早々、面白いものが見られるなんて思わなかったわ。早く戻ってきて正解だ」
「面白いって…人の不幸を喜ぶところは響ちゃんらしいけど、こっちは大変だったんだからね」
舞は響歌に面白がられていたので凄く不愉快だった。
そんな舞の様子も、響歌は面白かった。
「だってさぁ、川崎君とのやり取りだけでもぎこちなくて楽しめたのに、その後で模造紙を黒く塗るんだもん。そりゃ、さっちゃんは怒るよ~。なんで黒く塗ったのかわかってしまうあたり、私って凄いかも!って思うけど。あんた達ってば、なかなかのズレ具合で、見ているコッチは楽しかったわぁ」
「ズレ具合って、どういう…って、いや、それよりも。響ちゃんってば、そんなところまで見ていたなんて。あの時、心の中で必死に響ちゃんに助けを求めていたのに!」
「私が川崎君と話しても何もならないでしょ。もしかしてあんた、私と川崎君をくっつけようとしているの?」
「そんなわけがないでしょ!」
「でしょ。だったら一応は川崎君と話せたんだし、さっちゃんの怒りなんて気にしない、気にしない」
「そりゃ、響ちゃんは当事者じゃないからいいだろうけど…」
「はい、はい。わかった、わかったから。さっちゃんは私の方から後でフォローしておくわよ」
「えっ、ほんと?」
「えぇ、私の手伝いをしてくれたらね」
すぐに響歌の手が舞の腕を捕らえる。そしてそのまま引っ張って、舞を教室の奥へと連れて行った。
「え、えっ、急にどうしたの。それに手伝いって、何?」
「文化祭の準備を干されて暇なあなたに愛の手を!な~んてね。あっ、いたいた。中葉く~ん、高尾く~ん」
響歌は舞の腕を掴んだまま、奥で作業をしている中葉幸太と高尾龍哉に声をかけた。
「ま、い~」
この声は! 聞き覚えのある声に、すぐに後ろを振り返る。
やっぱり…
「響ちゃん!」
「あらまぁ、救いの女神発見!っていう顔をしちゃって。見ていたわよ、さっきのやり取り。一部始終、しっかりとね」
響ちゃんと呼ばれた女子生徒はとても可笑しそうだった。
彼女の名前は葉月響歌。舞と紗智の友達の1人で、舞の登下校の友でもあった。
「響ちゃん、会えて嬉しいよ~。でも、やけに戻って来るのが早かったね。そんなに早いなら、あと15分くらい早く帰ってきてくれたらよかったのに…って、それはさすがに無理だよね。うん、ごめん、この言葉は忘れて」
さっきのことを思い、つい無茶なことを付け加えてしまったが、さすがにそれは無理だとわかるのですぐに謝る。
響歌は授業が終わるなり、足りなくなった模造紙を買いに行ったのだ。
だけどこの学校の周辺には画材屋どころかお店の一つも無い。何かを買うのなら駅前まで行かなくてはいけない。その駅前には、徒歩で往復1時間はかかってしまう。
さっきのやり取りを見ていたということは30分くらいで戻ってきたことになる。響ちゃんの足が…特に逃げ足が早いことは知っているけど、ここまで早く走れるものなのだろうか?
舞は不思議でたまらなかったが、響歌はなんでもないことのように答える。
「隣のクラスの友達から自転車を借りてぶっ飛ばしただけよ。しなくちゃならないことがまだまだ沢山あるからね」
あっ、その手があったんだ。ということは時間通りだったというわけか。
文化祭の準備はまだ終わってはいない。それどころかこれからが本番だというかのように山積みになっている状態だ。
そんな状態のまま先に帰るのは、本当のところをいうと舞もしたくは無い。
だってそんなことをしたら目立ってしまうもの!
良い風に目立つのも嫌なのに、悪いことで目立つなんてとんでもないわ。
響ちゃんも戻ってきたことだし、やっぱり残っていようかな。
「いやぁ、それにしたって戻ってきた早々、面白いものが見られるなんて思わなかったわ。早く戻ってきて正解だ」
「面白いって…人の不幸を喜ぶところは響ちゃんらしいけど、こっちは大変だったんだからね」
舞は響歌に面白がられていたので凄く不愉快だった。
そんな舞の様子も、響歌は面白かった。
「だってさぁ、川崎君とのやり取りだけでもぎこちなくて楽しめたのに、その後で模造紙を黒く塗るんだもん。そりゃ、さっちゃんは怒るよ~。なんで黒く塗ったのかわかってしまうあたり、私って凄いかも!って思うけど。あんた達ってば、なかなかのズレ具合で、見ているコッチは楽しかったわぁ」
「ズレ具合って、どういう…って、いや、それよりも。響ちゃんってば、そんなところまで見ていたなんて。あの時、心の中で必死に響ちゃんに助けを求めていたのに!」
「私が川崎君と話しても何もならないでしょ。もしかしてあんた、私と川崎君をくっつけようとしているの?」
「そんなわけがないでしょ!」
「でしょ。だったら一応は川崎君と話せたんだし、さっちゃんの怒りなんて気にしない、気にしない」
「そりゃ、響ちゃんは当事者じゃないからいいだろうけど…」
「はい、はい。わかった、わかったから。さっちゃんは私の方から後でフォローしておくわよ」
「えっ、ほんと?」
「えぇ、私の手伝いをしてくれたらね」
すぐに響歌の手が舞の腕を捕らえる。そしてそのまま引っ張って、舞を教室の奥へと連れて行った。
「え、えっ、急にどうしたの。それに手伝いって、何?」
「文化祭の準備を干されて暇なあなたに愛の手を!な~んてね。あっ、いたいた。中葉く~ん、高尾く~ん」
響歌は舞の腕を掴んだまま、奥で作業をしている中葉幸太と高尾龍哉に声をかけた。