少女達の青春群像 ~舞、その愛~
翌日の放課後、実習棟に来た中葉と橋本は響歌の大声によって迎えられた。
「ちょっと中葉君、橋本君。聞いてよ。谷村さんって、高尾君のことが好きなんだって!」
響歌は興奮しながら谷村の好きな人を中葉達に言ってしまった。
さっきそのことを響歌に話した舞は、慌てて響歌を止める。
「ちょっ、響ちゃん、ダメだよ、そんなことをバラしちゃ。さっちゃん達が知ったら怒っちゃうよ!」
「えっー、いいじゃない。好きなのは本当のことなんでしょ。しかも大声で、廊下でそんなことを話していたっていうじゃない。私が言わなくても、いずれバレるって」
それはそうなのだろうけど…
やっぱり私は、バラしたと知った時のさっちゃんやまっちゃんの反応が怖いよ。
それでも、もう遅い。中葉と橋本は面白そうな顔をしている。この話に興味を持ったみたいだ。
あー、もう、知らないからね!
舞は頭を抱えたい心境だったが、響歌の方は嬉々として話し始めた。
「最初に気づいたのはまっちゃんらしいんだ。谷村さんとその友達がそんな話をしていたんだって。あっ、まだ、高尾君と決まったわけじゃないの。今週の実習棟のトイレ掃除の当番になっている4人の中の誰かみたいよ」
「実習棟のトイレ当番って…オレ達だよな?」
「あぁ、他にも黒崎と高尾がいるけどな」
男子2人はそんなことを言い合っている。
「谷村さんはトイレ掃除から帰る前に、その中の誰かに声をかけたかったみたい。さっちゃんの予想だと高尾君みたいなのよね。私は知らなかったんだけど、よく高尾君に話しかけているみたいだから」
まったく響ちゃんってば、余計なことをぺラペラと話すんだから!
「まぁ、オレじゃないな。オレは谷村さんと話したことが無いから」
どうやら橋本は候補から外れたらしい。
「オレだって、谷村さんと話したことは無いよ。ということは高尾か、黒崎か。今度、あいつらに聞いてみようか」
中葉も候補から外れたようだ。
中葉君が候補から外れたのは良かったけど…もう、余計なことをしようとしないで!
「そうしてくれる?やっぱりはっきりとはわからないからモヤモヤするのよね」
ちょっと、響ちゃんってば!
焦る舞を前に、黒崎と高尾に訊いてみることで話が終わってしまった。
中葉が鞄から『愛の交換日記』を出した。
「はい、舞。これ、今日の分だよ」
あっ、そういえば今日はまだ交換していなかったんだ。
昨日気まずい別れ方をしたから、少し気になって中葉君に渡せていなかったのよ。
でも、日記はちゃんと書いたし、私も渡しておかなくっちゃ。
舞は中葉と同じように『愛の交換日記』を鞄から出した。
「はい、中葉君。私もたくさん書いておいたからね」
そんな2人に、響歌は呆れていた。
「あんた達、まだ交換日記をしていたんだ。よくもまぁ、毎日毎日書くことがあるわよね。いったい何を書いているのよ?」
「毎日そんなのやっているんだろ。よく飽きないよな」
橋本も響歌と同じ意見なようだ。
「2人共、何を言っているんだよ。逆に毎日書いても足りないくらいだよ。次から次へと色々なことが起こっているから文章にするのが追いつかないくらいなんだ」
中葉は舞に渡そうとしていた『愛の交換日記』を2人の目の前に広げる。
「たとえばこのページは昨日の出来事なんだ。文章にするだけで3ページにもなっちゃったよ」
広げるだけでなくて、響歌と橋本に強引に『愛の交換日記』を渡した。
「ちょっ、ちょっと、中葉君。私、まだ読んでなくて…」
中葉君、昨日のことって言っていたけど、何か変なことを書いてはいないでしょうね?
舞はとても不安だった。嫌な予感が大いにする。
不安な表情になっている舞の前では、読み進めている響歌と橋本の顔が明らかに変わってきていた。
知ってはいけないような…そんな顔をしている。
「おい中葉、これをオレ達に見せるのは、さすがに今井さんに悪いだろ」
聞き捨てならない言葉が橋本の口から出た。
しかも響歌の口からも!
「そうよね、これは私達に見せるべき内容じゃないわ。ムッチー、あんたも見ない方がいいわよ」
そんな、そんなことを言われたら余計気になるじゃない!
誰にでもある『怖いもの見たさ』だ。その欲求が舞を動かした。急いで響歌と橋本から日記を奪い、目を通した。
「………」
読み終えた舞は、頭が真っ白になった。その手から日記が落ちる。
「あっ、舞、大切な日記を乱暴に扱うんじゃない!」
中葉は舞を怒ったが、舞にはその声が届いていなかった。
それも当然のことだろう。日記には昨夜の赤裸々な姿が書いてあったのだから!
「中葉君、今日はこのへんで私達は帰るよ。ムッチーの様子が何か変だし」
響歌が舞を気遣って中葉に言ったが、中葉は納得しなかった。
「なんで帰るの。まだいたらいいじゃないか。明日からゴールデンウィークになって会えなくなるんだよ。それに舞の様子が変なら、オレがついていてあげないといけないだろ。あっ、なんだったら響ちゃんは先に橋本と一緒に帰ったらいいよ。舞のことはオレに任せてくれていいから」
それだと余計に症状が悪化するだろう。
響歌と橋本は心の中で同じことを突っ込んでいた。
とにかく今は舞と中葉を引き離さなくてはいけない。そんな気が大いにする。
しかしどう言えば大人しく引き下がってくれるだろう?
響歌は考えたが、中葉を説得できるような上手い言葉が出てこない。
そんな響歌に、橋本が助け舟を出してくれた。
「たまには女同士で帰らせてやれ。どうせゴールデンウィークも今井さんとデートするんだろ。今日くらい、いいじゃないか。お前は今井さんを独占したいんだろうが、少しは寛大になれ。オレから見ても、今日の今井さんは早く帰った方が良さそうだぞ」
「う~ん…なんか納得できないけど。まぁ、橋本までそう言うのなら仕方がないか。響ちゃん、残念だけど、今日は橋本と一緒に帰ることにするよ。響ちゃんは舞と一緒に帰ってあげてくれないか?」
「もちろん。ムッチーは私に任せて、中葉君は橋本君と男同士の友情を深めてよ。じゃあ、ムッチー。今日はこのへんで帰ろう」
響歌は既に石像になりかけている舞を促した。
中葉が納得している間にこの場から離れたい。
それでも促すだけではまったく動かなかったので、響歌は半石像状態の舞を渾身の力で引っ張って帰ったのだった。
「ちょっと中葉君、橋本君。聞いてよ。谷村さんって、高尾君のことが好きなんだって!」
響歌は興奮しながら谷村の好きな人を中葉達に言ってしまった。
さっきそのことを響歌に話した舞は、慌てて響歌を止める。
「ちょっ、響ちゃん、ダメだよ、そんなことをバラしちゃ。さっちゃん達が知ったら怒っちゃうよ!」
「えっー、いいじゃない。好きなのは本当のことなんでしょ。しかも大声で、廊下でそんなことを話していたっていうじゃない。私が言わなくても、いずれバレるって」
それはそうなのだろうけど…
やっぱり私は、バラしたと知った時のさっちゃんやまっちゃんの反応が怖いよ。
それでも、もう遅い。中葉と橋本は面白そうな顔をしている。この話に興味を持ったみたいだ。
あー、もう、知らないからね!
舞は頭を抱えたい心境だったが、響歌の方は嬉々として話し始めた。
「最初に気づいたのはまっちゃんらしいんだ。谷村さんとその友達がそんな話をしていたんだって。あっ、まだ、高尾君と決まったわけじゃないの。今週の実習棟のトイレ掃除の当番になっている4人の中の誰かみたいよ」
「実習棟のトイレ当番って…オレ達だよな?」
「あぁ、他にも黒崎と高尾がいるけどな」
男子2人はそんなことを言い合っている。
「谷村さんはトイレ掃除から帰る前に、その中の誰かに声をかけたかったみたい。さっちゃんの予想だと高尾君みたいなのよね。私は知らなかったんだけど、よく高尾君に話しかけているみたいだから」
まったく響ちゃんってば、余計なことをぺラペラと話すんだから!
「まぁ、オレじゃないな。オレは谷村さんと話したことが無いから」
どうやら橋本は候補から外れたらしい。
「オレだって、谷村さんと話したことは無いよ。ということは高尾か、黒崎か。今度、あいつらに聞いてみようか」
中葉も候補から外れたようだ。
中葉君が候補から外れたのは良かったけど…もう、余計なことをしようとしないで!
「そうしてくれる?やっぱりはっきりとはわからないからモヤモヤするのよね」
ちょっと、響ちゃんってば!
焦る舞を前に、黒崎と高尾に訊いてみることで話が終わってしまった。
中葉が鞄から『愛の交換日記』を出した。
「はい、舞。これ、今日の分だよ」
あっ、そういえば今日はまだ交換していなかったんだ。
昨日気まずい別れ方をしたから、少し気になって中葉君に渡せていなかったのよ。
でも、日記はちゃんと書いたし、私も渡しておかなくっちゃ。
舞は中葉と同じように『愛の交換日記』を鞄から出した。
「はい、中葉君。私もたくさん書いておいたからね」
そんな2人に、響歌は呆れていた。
「あんた達、まだ交換日記をしていたんだ。よくもまぁ、毎日毎日書くことがあるわよね。いったい何を書いているのよ?」
「毎日そんなのやっているんだろ。よく飽きないよな」
橋本も響歌と同じ意見なようだ。
「2人共、何を言っているんだよ。逆に毎日書いても足りないくらいだよ。次から次へと色々なことが起こっているから文章にするのが追いつかないくらいなんだ」
中葉は舞に渡そうとしていた『愛の交換日記』を2人の目の前に広げる。
「たとえばこのページは昨日の出来事なんだ。文章にするだけで3ページにもなっちゃったよ」
広げるだけでなくて、響歌と橋本に強引に『愛の交換日記』を渡した。
「ちょっ、ちょっと、中葉君。私、まだ読んでなくて…」
中葉君、昨日のことって言っていたけど、何か変なことを書いてはいないでしょうね?
舞はとても不安だった。嫌な予感が大いにする。
不安な表情になっている舞の前では、読み進めている響歌と橋本の顔が明らかに変わってきていた。
知ってはいけないような…そんな顔をしている。
「おい中葉、これをオレ達に見せるのは、さすがに今井さんに悪いだろ」
聞き捨てならない言葉が橋本の口から出た。
しかも響歌の口からも!
「そうよね、これは私達に見せるべき内容じゃないわ。ムッチー、あんたも見ない方がいいわよ」
そんな、そんなことを言われたら余計気になるじゃない!
誰にでもある『怖いもの見たさ』だ。その欲求が舞を動かした。急いで響歌と橋本から日記を奪い、目を通した。
「………」
読み終えた舞は、頭が真っ白になった。その手から日記が落ちる。
「あっ、舞、大切な日記を乱暴に扱うんじゃない!」
中葉は舞を怒ったが、舞にはその声が届いていなかった。
それも当然のことだろう。日記には昨夜の赤裸々な姿が書いてあったのだから!
「中葉君、今日はこのへんで私達は帰るよ。ムッチーの様子が何か変だし」
響歌が舞を気遣って中葉に言ったが、中葉は納得しなかった。
「なんで帰るの。まだいたらいいじゃないか。明日からゴールデンウィークになって会えなくなるんだよ。それに舞の様子が変なら、オレがついていてあげないといけないだろ。あっ、なんだったら響ちゃんは先に橋本と一緒に帰ったらいいよ。舞のことはオレに任せてくれていいから」
それだと余計に症状が悪化するだろう。
響歌と橋本は心の中で同じことを突っ込んでいた。
とにかく今は舞と中葉を引き離さなくてはいけない。そんな気が大いにする。
しかしどう言えば大人しく引き下がってくれるだろう?
響歌は考えたが、中葉を説得できるような上手い言葉が出てこない。
そんな響歌に、橋本が助け舟を出してくれた。
「たまには女同士で帰らせてやれ。どうせゴールデンウィークも今井さんとデートするんだろ。今日くらい、いいじゃないか。お前は今井さんを独占したいんだろうが、少しは寛大になれ。オレから見ても、今日の今井さんは早く帰った方が良さそうだぞ」
「う~ん…なんか納得できないけど。まぁ、橋本までそう言うのなら仕方がないか。響ちゃん、残念だけど、今日は橋本と一緒に帰ることにするよ。響ちゃんは舞と一緒に帰ってあげてくれないか?」
「もちろん。ムッチーは私に任せて、中葉君は橋本君と男同士の友情を深めてよ。じゃあ、ムッチー。今日はこのへんで帰ろう」
響歌は既に石像になりかけている舞を促した。
中葉が納得している間にこの場から離れたい。
それでも促すだけではまったく動かなかったので、響歌は半石像状態の舞を渾身の力で引っ張って帰ったのだった。