献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~

フロア一階のお手洗いは、総務部と広告宣伝部の間にある。
トイレと洗面台の他に化粧台まで備え付けられたそこへ一歩足を踏み入れると、「やだもう、超楽しみ」という高い声が聞こえてきた。

「あ、日野さん。お疲れ様です」

例のふたりだ。
カールした茶髪を耳にかけた色っぽい西野さんに、前下がりのボブに華奢なスタイルの松島さん。

「お疲れ様です」

西野さんは受付をずっと留守にしていると思ったら、松島さんとここで喋っていたらしい。
先輩として、今日は少し忙しいから早く戻ってねと言わなければと思ったが、どうにもうまく言葉が出てこなかった。

「日野さん今日ヒマですか? 仕事終わったらご飯行きません?」

「え?」

「駅前の洋風ダイニング。私たち行ってみたくて」

ふたりは交互に私を誘う言葉をかける。
このメンバーでご飯なんて、行ったことない。
どういうつもりなんだろう。

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