献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~

電話が通じる時間になり、俺はすぐに携帯からヨツバへ掛ける。
『プー、プー』という機械音。
繋がらない。
嘘だろ、こんなときに話中なんて。

かなりの距離を走ったため一度足がもつれ、息が切れる。
胸ポケットに携帯を戻し、次は鞄の中にある、自分のプライベートのスマホを取り出した。
どうすればいいか分からないまま、通話画面から【日野愛莉】を選ぶ。

「はぁ……はぁ……」

息が切れたままもう一度走り出した。
スマホを耳に当てたまま、願うような気持ちで、呼び出し音を聞いていた。
どうしてこんなときに繋がらないんだ。
もうダメなんだろうか。
すると、呼び出し音が止んだ。

『……はい』

出た!

「愛莉!!」

走る速度が増す。

『ど、どうしたの?』

「愛莉! 封筒を開けるな!」

俺は、全身全霊で叫んでいた。
スマホを握りしめ、天に祈る。

『……あ、A4の封筒ですか? それならもう……』

そんな。
間に合わなかったのか?
膝から崩れそうになりながら、皮肉にも、そのときやっとヨツバのエントランスへたどり着く。
滑り込むように中へ入り、総務部のカウンターへかじりついた。
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