献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~
俺の様子に、総務部の社員たちの視線が集中する。
カウンターの近くには、スマホを耳に当てたままの愛莉が立っていた。
「あ。穂高さん」
彼女の腕には例の封筒が抱えられていた。
走りすぎて喉から血の味がし、絶望で頭が真っ白になる。
「これ、封筒です。どうそ 」
「……え?」
ふらふらとカウンターへ寄ると、彼女から『よつば商事 御中』と書かれた封筒が差し出された。
封は切られていない。
「西野さんから渡されたんですが、宛名が違っていたので。開けずに、たった今、支店にご連絡したところだったんですよ」
「…………開けて、ない」
「はい。確認せずお預かりしてしまったようで、申し訳ありませんでした」
受け取るために手を出すと、自分の手は震えていた。
冷や汗が熱さに変わり、絶望は安堵へ、緊張感は脱力感へ。
柔らかい笑顔を浮かべる愛莉は、まるで女神のようで──。
「愛莉!!」
俺はカウンターの向こうの彼女の手首をとった。