献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~

「俺と付き合ってくれる?」






──カウンターの向こうにいた清澄くんに手首を掴まれ、引き寄せられた。

「えっ!?」

彼の手はじわりと汗ばんでいたが、そんなことを考える間もなく私の頭は彼の胸に押し付けられる。

「え、え」

彼の青いネクタイが目と鼻の先にある。
カウンターを隔てているため身を乗り出す形の無理な姿勢だったが、清澄くんはそんなことお構い無しに、私の背中へと手を回し、抱きしめた。

「愛莉……! マジで助かった! ありがとう……!」

ギュウギュウと腕の中に閉じ込められ、私は混乱で目が回った。
皆が見てるのに……!

顔に熱が集まって溶けてしまいそうなくらい恥ずかしいが、私はこの腕をほどけないほど、うれしさが込み上げてきた。
どうして抱きしめるの?
異動になるから、私とはこれでサヨナラなんじゃなかったのだろうか。
秘密で始まった私たちの関係は、ヨツバにも、銀行にも、誰にも知られないまま、終わるんだって思っていたのに。

こんなことして、いいの……?

「……清澄くん……?」

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