献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~
私が彼にだけ小さくつぶやくと、清澄くんはピクリと反応し、そして勢いよく体を離した。
「あっ……」
彼は真っ赤になっており、おそらく私の背後にいる社員たちの視線を受けて固まっている。
……私も同じだ。
背中がピリピリと痛い。
「す、すみませんっ……」
清澄くんは謝罪をして離れたが、もう取り返しがつかない空気になっている。
私も天に昇ってしまいそうな気持ちだ。
恥ずかしくて。
うれしくて。
「じゃ、じゃあ、こちらは回収させていただきます。今回のことは社長に改めてご説明に伺いますので。あ、あの、お騒がせしました。失礼します!」
清澄くんは真っ赤な顔のまま、逃げるようにエントランスを去ってしまった。
当たり前だが、周囲はしばらく沈黙し、そしてざわめき始める。
ああ……どう思われたかな。
責められるかな。
恨まれるかな。
でも、どう思われたとしても、今はそんなことは気にならなくて。
「信じらんないっ! なによ今の!」
近くにいた西野さんが私に詰め寄るが、今は彼女に嘘をついて取り繕うことなどに頭は回らない。