献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~
「やっぱり穂高さんとそういう関係だったわけ!? アンタなんでもないって言ったじゃない! 嘘つき!」
こうやって言われることが怖かったはずの私なのに、なにも怖くない。
癖だったごめんなさいって言葉も思い付かない。
放心気味の私が黙っていると、ざわめく総務部内に「静かに」という女性課長の声が響いた。
課長は私の前に立ち、西野さんに向き合う。
「そんなことより、西野さん。勝手に銀行へ行って書類を預かってくるなんてダメでしょう。受け渡しは総務部が担当することになっているんだから、いい加減なことをしたら銀行さんも混乱するわ」
「えっ、そんな、私はよかれと思ってやったんですぅ……」
「決まりを守ってって言っているの。前から思っていたけど、西野さんはちょっと離席が多すぎるし、まずは自分の担当する業務を真面目にやって。今回は日野さんのおかげで、銀行さんに迷惑をかけずに済んだのよ」
「なっ……」
西野さんは私を睨むが、里見さんや課長、そして他の社員たちも彼女に厳しい目を向けていた。
普段はあまり私を褒めない課長が、そんなことを言ってくれるなんて驚いた。
「日野さんも」
「は、はい!」
と思っていたけど、私にも課長の厳しい視線が飛んできた。
すると課長は、クスッと微笑む。
「彼氏とイチャついちゃダメ」
課長の、厳しくも甘いお叱りが、なんとも恥ずかしくて。
「……す、すみません……」
私を抱きしめて置いていった清澄くんが、ちょっとだけ憎らしかった。