献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~

「大丈夫だった? 西野さんとかに責められなかった?」

私は首を横に振る。
責められたけど、全然気にならなかった。

「よかった。俺があんなことして帰ったから、愛莉のことが心配だった」

……でも、つい抱きしめただけで、他意はないって言い方に聞こえる。
やっぱり恋人には思われていないのかな。
それも含めて、今日話してくれると言っていたけど。
期待と不安が入り交じって、さっきからずっと心臓が痛い。

前菜のお皿が運ばれてくる。
ひと通り説明を受け、フォークで少しずつ味わった。

彼が切り出すのを待てず、私は「あの」と先に尋ねる。

「清澄くん。異動して海外に行くって本当……?」

彼の手が止まり、料理から私へと目を移す。

「え。うん。ニューヨークに行く。誰に聞いた?」

あ……やっぱり本当なんだ。
こんなに美味しいフレンチですら味がしなくなるほどショックを受けた。
覚悟していたけど、こうして聞かされるとつらい。

今夜はやはり別れのディナーか、よくても遠距離恋愛の打診をされるかだ。
どちらにせよ、清澄くんが離れてしまうのだ。

「異動の挨拶に来てたって噂になってたよ。……私、全然知らなかった」

「そうだったのか。ごめん……今日それを言うつもりだったんだ。異動が決まったから、愛莉とのことをちゃんとしたくて」

ちゃんとするって、切るってこと……?

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