献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~
──穂高さんだ。
彼も東京ABC銀行の行員なのだから、この場に呼ばれてもおかしくない。
「……なんだこれ。おい若林、仕事の相談じゃねーの?」
穂高さんは若林さんを睨んだ後、隣に座る内藤さん、そして私たち女性陣へとやった。
どうしたらいいわからず、ついうつ向いて顔を隠した。
同僚に対する彼はいつもより少し雑な話し方のようで、ギャップがあった。
内藤さんは人知れずガックリと肩を落としているが、彼の気持ちはなんとなくわかった。
合コンの場へ急に穂高さんが現れたら……どうなるかは、私でも予想がつく。
案の定、西野さんと松島さんはもう穂高さんのことしか目に入っておらず、「穂高清澄さんですよね……!?」と、体をすっかり彼にだけ向けて話しかけ始める。
穂高さんは眉間のシワをいったん解き、「そうですけど。どこかで会いましたっけ?」と笑顔を向けた。
西野さんは受付にいるから出入りしているときに見ているはずだけど、今日の彼女は髪型や服装が違っているため、おそらく気づかないのだろう。
それでもめげずに彼女は答えた。
「うちの会社、穂高さんに担当してもらってるんですよ! 銀行の渉外さんが格好いいって社内で有名なんです! 私、受付にいる西野です」
「え。どちらの会社ですか?」
「ヨツバです」
穂高さんは数秒だけ止まったが、すぐに柔らかい笑顔で「そうでしたか。いつもお世話になっています」と返した。