献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~
穂高さんは生ビール、私はカシスウーロンを頼むとすぐに用意され、簡単に乾杯をする。
「あのさ。どうして言い返さなかったんだ?」
ひと口飲んでグラスを置いた彼は、皆の前で言ってくれた甘い言葉とは打って変わって、私に厳しい言葉を投げ掛ける。
ほんの少しピリッとした空気が伝わってきた。
やっぱり助けてくれただけで、私のことを好いてくれているわけではない。
「……ごめんなさい」
わかりきっていたことだが、再び緊張が戻り体が強張った。
「謝るんじゃなくて。あんな嘘を言われて腹が立たないのか?」
〝あんな嘘〟
それは『日野さん彼氏いますよ』という西野さんの言葉のことだろうか。
あの場では誰も嘘だと明かしていないのに。
「嘘ってわかるの……?」
「わかるよ。俺たちだって馬鹿じゃねえんだ。雰囲気でわかる。あんなの通用するわけないだろ」
後輩さんたちに対する言葉使いでも感じたけれど、穂高さんは少しだけ口が悪いときがある。
それか、わざと強い言葉で憤慨して、遠回しに私を慰めてくれているのかもしれない。
ヨツバへ来る仕事中の優しい彼とのギャップを感じ、胸が鳴った。