献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~

「日野さん……」

「大丈夫。本当によくあることだから、もう慣れちゃってるよ」

「慣れたからって大丈夫になるもんじゃないだろ」

あ……。

「ほら。大丈夫じゃないって顔だ」

ただでさえ許容量を越えていた涙腺から涙があふれて止まらない。
穂高さんは手近にあった個包装のおしぼりを取って、袋を破って私に差し出した。
恥ずかしくて、それを受け取って涙を吸い込ませる。

穂高さんがこんな情けない私の弱音に付き合ってくれるなんて。
呆れてため息をつかれてしまったり、まったく理解されないものだと思っていたのに。
穂高さんがみんなから好かれる理由がわかる。

「穂高さん……ありがとう」

私に同情して励ましてくれただけで、今は素直にそう感じた。
ちゃんと伝えたくて涙だらけの瞳でまっすぐ見つめると、彼は「いや、べつに」と少し照れた様子を見せる。
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