献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~
こんなに悔しがる淳司の顔を初めて見た。
つくづく、私は卑怯だと思う。
淳司にされたことや、こうして偶然会ったときでさえ馬鹿にされたこと、本当はすごく悔しかった。
自分ではなにもできなかったくせにこんな感情を持つなんて情けないけど、今、言い負かされている淳司を見てスカッとしている。
心も体も心地よくて、穂高さんの腕の中で溶けてしまいそうだ。
酔いもあってそのまま彼の胸にすがっていると、やがてのれんの向こうから「おーい、まだかー?」という淳司の友人が呼びに来る声がした。
淳司は舌打ちをし、最後に私たちに「死ね」とつぶやくと、のれんを乱暴に弾いてこの個室を去っていく。
その背中はひどくちっぽけなものに見えた。
「……行ったな」
数秒待ち、もう戻らないことを確認した穂高さんは、私の頬に触れていた手を背中へとずらして支えてくれる。
「あの、ごめんね……」
夢心地もつかの間、この状況が申し訳なくてたまらなくなった。
優しい穂高さんは見過ごせず、恋人のふりで追い返してくれたのだ。
きっとクラスにひとりいるかいないかの、流されずにいじめは止めようと言える正義感の強いヒーローのような人。