献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~
清澄くんが助けてくれたのは善意で、私が引っ掻けたのは事実じゃないと言い返したいのに、言葉が出てこない。
いつもこうして危うい雰囲気になると里見さんが助け船を出してくれるのだが、今日は彼女は有休で不在だ。
〝穂高さん〟というキーワードにはやはり周囲も興味があるようで、背後では「引っ掻けてるって?」「たしかに穂高さん来ると仲良さげに話してるかも」とコソコソと話が広がっているのが聞こえてくる。
悪く言われているような気がして怖くなった。
こうなるから、清澄くんとの関係は誰にも悟られないようにしないといけない。
関係といっても、私たちはいったいどういう関係なのかわからないけど。
付き合っているわけでもないのにエッチをする約束をするのは、彼には普通のことなのだろうか。
「すみません、日野さん」
「えっ」
どうなだめたらいいのかわからずにいると、このタイミングでまさかの清澄くんが現れた。
西野さんと松島さんも「えっ」と彼に視線を向け、清澄くんも「ああ」とふたりを認識する。
しかしまずは私の前へやってきて、鞄から書類を取り出した。
「社長に依頼されていた書類です。渡してもらえますか」
「は、はい」
なにも後ろめたいことを話しているわけではないのに、先ほどの話を聞いていた周囲の女性社員たちはザワザワとし始める。