献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~

「こんにちは、穂高(ほだか)さん」

彼が来るといつも、女性の多い総務部の空気は甘く変わる。
パキッとした性格の里見さんでさえも、彼にだけは頬が緩むのだ。

穂高 清澄(きよすみ)。
東京ABC銀行、丸の内支店、係長。ヨツバの渉外担当である。

百八十センチを越えているであろう身長に、整った顔立ち、誠実ともプレイボーイともとれる柔らかい雰囲気、そしてメガバンク勤務という非の打ち所のない人だ。

彼がヨツバの担当になってからというもの、各部署にファンが増え続けている。
うちの社長も彼のレスポンスが早く約束を破らない仕事ぶりをとても気に入っているという噂だ。

「電子サービスのご契約控えをお持ちしたんですが、社長に総務部に渡すように言われました。日野さんに渡して大丈夫ですか?」

「はい。承知しています」

クリアファイルに入れ、さらに封筒に入れられた契約書控えの用紙を受け取り、すぐに取り次ぎ物件のラックに入れる。

これで終わりかと思い「ありがとうございました」と頭を下げたが、穂高さんは明るい表情でまだ私を見ていた。

するとおもむろに、彼は自分の襟足あたりを指差しながら、「今日、ちょっと雰囲気違いますね」とつぶやく。

「……え?」

「髪、切りましたか?」
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