献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~
電話しているだけなのに、声を聞いていると麗奈の黒髪から匂うチェリーの甘ったるい香りが漂ってくる気がした。
「とにかく、その日は無理だから」
ちゃんと断らなきゃと思い強く言い直したが、麗奈の調子は変わらず『はいはーい』と結局理解したのか不明な返事だけをされ、通話を切られる。
一気に疲れた。
しかし数秒後、また着信が鳴る。
今度こそ愛莉だろうと思ったが、画面には【凜花(りんか)】の文字が映る。
「……なに、凜花」
『あ! よかった、清ちゃん出た。今大丈夫?』
「……うん」
ふわふわとした平和な声が電話口から聞こえてきた。
『あのねぇ、今度の土曜日、清ちゃん空いてるかな?』
「いや……空いてない」
『そうなの? 泊めてほしいなって思ったんだけど……ダメかなぁ?』
麗奈と同じことを言い出す凜花に、嫌な予感がした。
それにしても空いてないからダメだって言っているのに、なんて強引なんだ。