大人の初恋
インターフォンが鳴ったので
「はーい」
と返事をしながら玄関に向かう。
正直何を話していいか、どんな顔をして会えばいいのか、頭の中がぐちゃぐちゃだ。しかし、どうすることも出来ない。
どうにでもなれ、と思いながらドアを開ける。

「こんにちは」
と言われたので
「こんにちは」
と返す。

沈黙が流れる。気まずい。
気まずさに絶えきれず
「昨日はありがとうございました」
などと心にも無い事を口走ってた。


「ぷっはっ」
彼が吹き出した。直後に爆笑された。
「ごめん。ごめん。あまりにも言ってる事と、表情が逆だったから」
まだ笑っている。
そんなに顔に出てたのかと思い両頬に手を置く。
「大丈夫だから。昨日さんざん話してたから分かってるから」
一体何を話したんだろうと思い恐る恐る聞く。
「あのー、昨日私は何を話したのでしょう?」
「聞きたい?」
頷く。
「とりあえずお昼も近いし家に入れてよ。オムライス食べよ」
オムライスは私の一番の好物だ。ふわふわの卵の上にかけるケチャップが……
そんな事を考えている場合ではない。
家にあげるのか。気が進まない。
普段の私なら断っている。1人暮しだし昨日初めて会ったばかりの人だ。
常識的に考えてもどうかと思う。
だが昨日、私の知らぬ間に私が何をしたのか。何を言ったのか気になる。うだうだと考えていると、
「大丈夫。結奈には何もしないから」
と言われた。
私には女としての魅力を感じられないの大丈夫だろうか。などと考えながらもとりあえず家にあげることにした。

 しかしオムライスを食べようと言った割に手ぶらだ。そんな事を考えながらも温かいほうじ茶を出す。
「昨日私大丈夫でしたか?」
「全く覚えてないの?」
「全部覚えてないと言うか、テキーラの後は全く」
「それは残念。ずっと俺のジャケット引っ張りながら、愛想が無いとか、そんなんじゃ彼女が出来ないとか、二重人格とか言ってたから、どんな風に謝るかと思って楽しみにしてたのに」
心の中に秘めてればいい事を、全部吐き出したんだと思い
「すいませんでした」
と謝る。
「俺も悪かった。ちょっと意地悪が過ぎたかも」
笑いながら言う。
「それよりもお腹すいた。台所借りる」
席を立つなり冷蔵庫を開けた。玉ねぎと人参、ウインナーなど取り出し調理を始める。
勝手に冷蔵庫を開けた事に驚いてる私に気づいて
「昨日送って来たときに、水を飲ませようと思って冷蔵庫あけた」
だから手ぶらだったのか、と思い納得する。
手伝おうかなと思いながらも、私の家に男の人が居ること。しかも2人っきりの状況にソワソワしながらスマホを手に取る。何も頭に入っては来ないがニュース欄をスクロールしてみる。

 そうしている間にオムライスが出来上がった。
テーブルを拭きスプーンを準備する。渚がオムライスを運んで来て同時に席に着く。
「いただきます」
凄く美味しい。卵の上にかかってるのがデミグラスソースではなく普通のケチャップなのがいい。
中のチキンライスも、鶏肉ではなくウインナーな所もいちいちツボだ。

 お腹いっぱい食べて、少し話しをした後に渚のスマホが鳴った。
「それ俺の荷物。服とか入ってるのだからその辺に置いて。」
「今知り合いの家に居る。今じゃなきゃだめ?」

 どうやら電話は姉からで、車を使うから返してとの催促の連絡だった。
実家が岩手というのは本当らしい。
出張なので一緒に来た2人とホテルに泊まってると思ったが、渚の私物が届いてるので実家に居ると推測できる。
何故だか分からないが、あのネチネチおじさんとずっと一緒に居なくてもいいみたいで、少し安心した。

 材料は家にあった物だったが、作ってもらったので
「ごちそうさま」
と言い渚を見送った。




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