ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
「え、ど、どういう、こと……?」
「俺を揶揄っているのか? 悪い冗談はやめてくれ」
七生は焦燥を見せた。
揃えた互いの薬指をずいっと目の前に掲げてくる。
「よく見ろ。ほら、婚約指輪をしているだろう」
七生は少し自信なさげに見えた。
文の知る、いつもの彼とは違った。
申し訳ないけれど文は七生が苦手だ。
秘書を務めるようになってから、仕事柄顔を合わせることが多くなった。
視線を感じて振り向くと、いつも刺すような目で見られている。
あれは仕事が遅くて不出来な秘書を責めているのだと感じていた。
この人と婚約者だなんて言われても全然しっくりこない。
「…………俺を忘れたっていうのか?」
痛いくらいに握っていた七生の手から、力が抜ける。
すとんとベッドに落ちた手がやけに寂しそうで、とんでもなく悪いことをしている気分になった。
「いや、あの……」
慌てて繕おうとすると、宝城が神妙な顔で遮った。
「外傷もなく、受け答えにも問題は見られなかった。一時的な脳の混乱だと思うけれど……」
「どうして俺のことだけ……俺を忘れたわけじゃないんだろ?」