ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
月曜も火曜も何事も無く仕事を終え、文は定時に上がった。

昨夜は夕食も一人分だけだと作る気にもなれず、適当に済ませてしまった。今夜はどうしようか。

七生はメールはくれるものの、忙しいのか時差に配慮しているのか、電話は出来ていない。

(つまらないな……)

ひとりの生活が味気ないと感じる。
これほどまでに七生のことを考えているのに、記憶は一向にもどる気配がない。

頭が痛くなるとか、夢に見るとか、ドラマのような現象は一切起こらない。
ふたりの関係を一歩踏み出してみたことも、とくに作用はしていないように思える。
七生はこの状態で良いのだろうか。

(嫌だな……)

無くしてしまった思い出があるなんて寂しすぎる。
七生は文を責めもしないし、無理矢理思いださせようともしない。それどころか、かなり楽観しているように見える。
たとえば、思い出の品とか見れば……。

「ーーーー写真」

そうだ。
どうして気がつかなかったのだろう。
付き合っていたのなら、ふたりの写真くらいあるはずだ。
急いでスマートフォンの記録を探ったが、何も出てこない。

文は写真は苦手だ。
家に籠もりがちで外出も必要最低限。

だからといって、一枚もないなんてことあるのだろうか。旅行にいったこともない? せめて、七生の写真くらいあってもいいのに。

文はいつも通りマンションに帰宅しようと改札を潜っていたが、突如くるっと向きをかえて、違う路線へと足を向ける。

(アパートへ一度帰ろう)

ふたりの軌跡がなにも見つからないことに、妙に不安になった。

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