ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
いつから付き合ったんだっけ?
告白はどちらから?
七生は、アパートに来たことあると言っていただろうか。
焦燥にかられた。
入社後からずっと住んでいた自宅へと向かう。
七生が暫く帰っては駄目だというから、退院してから戻っていなかった。
都心の高層マンションではなく、住宅街に窮屈に建てられた三階建てのアパートだ。
バッグに入れっぱなしだった鍵を差し、玄関を開ける。
すると、扉を開く前に声をかけられた。
「旭川さん」
「ひっ……!」
まったく周囲を気にしていなかったため、突然の声に飛び上がった。
振り向くと賢がいた。
パーティーの時とは全然違い、覇気がなかった。無精髭を生やし、目の下には隈ができている。
「っお、大山さん……」
数メートル先とはいえ、あの賢だ。今度も何をしてくるかわからない。
心臓をバクバクとさせながら、逃げる算段をとった。
走ってもいないのに、恐ろしさで呼吸が苦しくなった。
(逃げなくちゃ)
家の中に急いではいって、鍵を閉める?
ううん。もし賢が入ってしまってふたりきりになったらそれが一番危ない。
じりじりと廊下をさがる。
「そう警戒しないでよ。何もしやしないよ。あの男、刑事告訴はしないとか言っていたくせにしっかり接近禁止命令の手続きなんてとってやがってさ」
賢は疑いを晴らすように両手を挙げた。