ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
しかし、今期すぐに切るのは自社にも無理が出るため、他社での商談が目処がたち次第というところだ。

「旭川は元気無いようにはみえるけど、俺たちが留守の間も特に失敗もトラブルもない。三宅にもそれとなく聞いてみたけど、原因は仕事じゃなさそうだったな」

吾妻はさきほどのふざけた回答を改め、言い直した。
すでに三宅に声をかけてくれていたらしい。
吾妻は見ていなそうで、周りを見ている。
文の異変を感じとっていた。

「……ありがとう……」

「なんだ、らしくもなく愁傷だな」

「うるさいな」

必死にもなる。やっとこちらを向いてくれたのだ。

「……そういえばさ、琴音ちゃんどうしてる?」

吾妻はおもむろに話題を変えた。

「琴音? なんで?」

岩瀬琴音は十も年下の、幼馴染みだ。
母親同士が仲が良く、七生は琴音の家庭教師もしていたことがある。

父親が政治家で、七生がエスカレーター式の名門校に通っていたことから信頼を得ていた。

大学在学中に法務試験に合格した七生は、琴音の将来の相手になって欲しいと切望された。その時はどうしようかと思ったが、最近は音沙汰がないので諦めてくれたのだと思っている。

「そういえば、しばらく顔を見ていないな」

「冷たい男だな。許嫁じゃないか。将来を誓い合った仲なんだろ」

にやりとした吾妻に、眉を顰める。

「何を……」

何を言っているんだ? と言いかけたが、たたみ込んだ吾妻に遮られる。

「琴音ちゃんも会いたがっていたぞ。旭川を落とすことばかりに夢中になっていないで、たまには会いに行ったらどうだ」


琴音は可愛らしい風貌ではあるが、正直産まれたときから見ているため妹以外の何者でもない。
琴音自身も、さらさらそんな気はないのをよく知っている。

それは、吾妻も共通の認識事項であるはずだ。
何かを企んでいる笑みだった。

こういう顔をした吾妻は弁護士である自分よりもよっぽど狡猾で、苦手であった。
< 110 / 132 >

この作品をシェア

pagetop