ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
起きたときにはベッドの隣は抜け殻で、リビングへ行ったら、すでに仕度を終えて出掛ける直前の七生が居た。

スキニーにセーター。仕事では無さそうだ。

「出掛けるの……?」

「ちょっとね」

コートを羽織ると車のキーを持った。

「えっと……何時くらいに帰ってきますか?」

どこに行くのとは聞けなくて、帰宅時間だけの確認となる。
すると七生は苦しそうな笑みを向けた。

「……文は疲れているようだから、ゆっくりするといいよ。夕飯もいらないから」

夜まで、一日中いないということではないか。
束縛をするなと言われたようだった。
散々避けていたくせに、七生に同じ事をされると苦しい。なんてわがままなのだろう。

「じゃあ、行ってきます」

立ち尽くす文に、七生は背を向けた。
出掛けるときは、必ずといっていいほどキスを交わしていたのに。

「あの……」

文はとっさに七生の袖を掴んだ。
肩越しに振り返った七生が不思議そうにする。

「どうしたんだ?」

声色はとことん優しい。今までと変わらない。
けれど、壁を感じるのはなぜだろう。

自分がつくり出してしまったものなのか。
猛烈に抱きつきたいと思った。
広く温かい胸に飛び込んで、一緒にいたいと伝えたい。
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