ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
おかしいと思ったのだ。
騙されるのも馬鹿だけど。

七生がとても真剣だったから。傷つけてはいけないと思ったのだ。

ーーーーそれを。

文はずんずんとふたりに向かっていくと、バッグから賢から受け取った封筒を取り出して七生の胸に押しつけた。

「……え? これなに?」

状況が飲み込めていない七生は、落ちそうになったそれを慌てて掴む。

「……っお、お世話になりました!」

溢れそうになる涙を必死に堪えた。
くるりと背を向けて駅までの道のりを急ぐ。

「ちょ……待って! 文! 意味がわからない……っ」

悔しさを足に込める。呼び止める声は無視をして突き進んだ。
七生は怒鳴りながら追いかける。

「え、文さんなの?」

琴音の呟きが聞こえる。

走ってきた七生は文の腕を掴むと、書類を引っ張り出した。
一目見て、低い声を出す。

「ーーーーは?」

七生の怒りを感じ取って、文はどきりとした。
仕事で注意をされたことは何度もあっても、こんな風に心底怒らせたのは初めてだ。
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