ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
七生はパラパラと書類を確認すると、文を見据えた。

「文、この書類はなんだ? こんなもの、どこで手に入れた」

腕を掴む力が強くなって、文はわずかに身じろぐ。

「……七生さんが出張中に、賢さんが置いていきました……」

「マンションに来たのか?」

「いいえ、アパートに一度帰ったときに、つけられていたらしくて……その時に……」

「ひとりでアパートに帰ったのか?! 危ないからとあれほど……」

叱られて、我慢していた涙が子供のようにぶわっと出た。

「だって! 何が本当かわからなくなったんだもん……! 何にも思い出せなくて、でも七生さんが好きだって感じるし! でも賢さんが遊ばれてるだけだって言うから……!」

「ふ、文……」

七生は豪快に泣き出した文に動揺する。

「そ、そんなに泣くな、誤解なんだ。落ち着いて……俺が悪かったから」

「別に七生さんが原因で泣いてるわけじゃありません! これは人体に三種類あるうちの反射性の涙であって、感情的なものではありませんから!」

つい大きな声が出る。
子犬のようにきゃんきゃんと反論すると、七生は複雑そうに押し黙った。

「……生理的な涙って意味で合ってる?」

七生の親指が頬を撫で涙を拭う。
そのしぐさがとても優しくて、文は縋りたくなった。

(ーーーー捨てないで欲しい)

でも、そんなこと言えない。

「そ、そうですっ」

「俺って、玉ねぎと一緒ってこと?」

眉毛をさげた七生にじっと見つめられ、文は言葉を失った。
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