ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
七生はゆっくりと息を吐く。

「……悪かった」

ぽつりと謝られて、やっぱり遊ばれていたのだとはっとした。
しかし、七生はすぐに補足した。

「誤解するなよ」

書類を睨みつける。

「俺は、遊びで付き合ったりしない。文のことは真剣に愛してる。……けれど、ちょっと、色々と複雑なんだ。ひとつずつ説明したい」

七生は琴音を振り返った。
琴音は門の前に立ち尽くしたまま、きょとんとしている。

悪意のなさそうな雰囲気に、居心地が悪くなった。

「せ、説明もなにも、彼女は許嫁なんですよね? だって、腕を組んでたじゃないですか。それに、報告書にだって……」

「いや、違うんだよ。それもちゃんと……」

意地を張って平行線の論争が続きそうだったとき、一台の車が七生と文の横にとまった。
運転席の窓が開くと、見知った顔が現れる。

「文ちゃんと七生じゃん。なんでこんな所で痴話げんかしてるの?」

治療を受け持ってくれた、医師の宝城であった。
スーツにオールバック。
夜勤明けのもっさりとした感じとはまた違って、ずいぶんスマートな雰囲気だ。

「宝城先生?」

最期に会ったのは、退院一週間後の検査だ。
記憶の件があるにも関わらず、通院はしなくていいと言われそれきりだった。

「逞さん!」

琴音の飛び上がらんばかりに嬉しそうな声が上がった。

「琴音」

駆けよった琴音に、宝城も目を細めて手を上げる。

「いらっしゃい、待ってたよ」

琴音はその手に自身の指を絡めた。
その雰囲気はまるで恋人のようーー……

(ーーーーん?)

どういうこと?
混乱する文に、七生は髪を搔いた。
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