ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
最愛の相手に忘れられてしまうという、同情せずにはいられない状況。
切ない抱擁と、悲しみをこらえる男の精一杯の強がり。
……のはずなのに、文の背中はなぜかゾクっとした。
悪寒に首をかしげる。
「記憶障害は一過性ってこともあるし、何かの拍子に不意に戻ったりすることもある。あまり気負わずに、ゆったりと過ごすといいよ」
宝城が気遣わしげに言った。
「刺激をあたえると良いって事か」
閃いたのか、七生の声のトーンが上がった。
今の状況だけで十分刺激がありすぎると思う。
「患者さんの負担になる刺激はおすすめしないよ」
宝城の助言に、文はしきりに頷いた。
側にいるだけで十分に刺激的だ。さらに追加で与えられるなんて、想像するだけでも恐ろしい。
「――――文」
「は、はいっ」
七生に呼ばれて、条件反射で返事をした。
すると頬を両手で包まれた。
「俺を忘れるだなんて、許さないぞ」
七生は目の奥を光らせる。
口角をゆるりと上げ、随分と余裕があるように見えた。
先ほどまで悲しんでいたのがうそのようだ。
言うと同時に顔が迫り、あっと言う間に唇が重なる。
「んん?!」
唇を奪われたのだと気づいたときには遅い。
後頭部に回された手が、逃がすものかとがっしりと掴んでいた。
「ちょっ……」
抵抗しようとすると、腕がずきっと痛んだ。
傷みに怯んだ隙に抱き寄せられ、身動き取れなくなる。
ふわりと重なるだけなんていう軽いものではない。驚いて叫んだ隙に、彼の舌が差し入れられた。
何度も角度を変えて、舌は口内を探るように蠢いた。