ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~

アメリカ帰りの社長の息子が副社長に就任して以降、様々な改革が行われていた。
会社の五カ年計画のスローガンは『new color』と定められ、FUYOUは日々変化を取り入れ、新しい色を生み出さなければならない。

文の異動もその一貫らしいが、秘書課の改革はもう少しゆっくり穏便にしてもらいたいというのが本音だ。
白羽の矢が立ってしまった文は配属からずっと、針の筵で過ごしている。

友人と呼べる同期は、あっという間に疎遠になった。
店舗、営業、秘書に務める人達は上昇志向が大きく、競争が激しい世界だ。
望みもしないのに社内の有名人となり、嫉妬され、陰口をたたかれた。

聞こえてくる陰口の半分は、コネだとか媚を売っただとかありもしない話ばかりであったが、もう半分、仕事に対する評価については的を得ていた。

素養が足りないのは勿論、人には向き不向きがある。
仕事の出来は散々たるもので、常に完璧を演じている秘書たちにとって、文の存在は汚点であった。

秘書課には文を含め五人が在籍しているが、会長、社長、副社長の誰かに配属となり、ふたりはサポート兼、オブザーバーだ。
その中でも、とりわけ仕事も難しくさらには人気のある副社長秘書となり、課内にも文の味方はいなかった。

初めこそ飛び抜けた能力があるのではと多少の期待もあったのに、失敗が多く機転もきかない不器用な仕事ぶりに、『なんであの子が』がという意見が一番多く聞こえた。
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