ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
「……近々、ふたりで住もうと話していたんだ。怪我や記憶のことが心配だし、逞も病状が急変する可能性もあるから、なるべく誰かと一緒にいてほしいと言っていただろ。良い機会じゃないか。……文は、ここで暮らすのは嫌?」
「そ、そういうわけでは……」
先にソファで寛ぎ始めた七生に、文は所在なくした。
隣に座る?
それとも荷物を片付けようか。
あ、お茶をいれるべきなのかも。
でもキッチンって勝手に使っていいのかな。いや、彼女なんだから使っていいに決まってる。
七生の匂いに包まれた部屋。
見慣れない高そうな家具。すべてが馴染まない。
「文、おいで」
苦笑した七生に手招きされて寄ると、座るように促された。
腕を引かれ誘導されたのは足の間。
「ひゃっ」
首筋に吐息がかかった。
後ろから抱きしめられ、体が硬直する。
「緊張してる……?」
「は、はい」
声が上ずる。
肩に埋められた額が、甘えるように擦り寄った。
「……無理をしないでと言ってあげたいけれど、早く慣れて」
「はい……」
寂しそうな声に胸がきゅっと痛む。
いつも太々しいのに、ところどころで寂しそうにするのがたちが悪い。
敏腕弁護士様はあざとさも習得しているのか。
「早く俺を好きになれ」
囁きに顔が熱を持った。
どういう意味かな。
早く思い出してほしいという意味かな。
やっぱり文の知る七生ではない。
女に興味があるのかと疑問に思うほど、好意を寄せた相手を冷酷に切り捨てていたのを見たことがある。仕事中はピクリとも笑わないし、ちょっと失敗すれば正論論破で叩きのめされる日々であった。
その七生が、文を甘々のセリフで攻めてくる。
ギャップに萌えるどころか、意味がわからなすぎて大混乱だ。