ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
でも、その言葉が自分を揶揄っていない、真摯なものだと言うことは伝わってきた。
七生はいったい自分のどこを好きになったのだろう。
いくらでも選べる立場なのに、顔も平凡、からだもヒョロヒョロで色気も無い。
「ええと、忘れちゃってごめんなさい。早く思い出すように努力します」
回された腕に手を添えて、精一杯の今の気持ちをつげた。
慣れなくて緊張はするが、仕事を抜きにすれば人として嫌いなわけではない。
七生は一度瞬きをすると、ゆっくりと口角を上げた。
向けられた流し目は妖艶で、それでなくとも跳ねていた心臓が大爆発をした。
そのまま傾けられた顔が近づく。
「あっ、……あ、あのっ」
とっさに唇を指で隠した。
「――――俺とキスは嫌?」
含みを持った質問に、なんて答えれば傷つけないで済むのか頭をフル回転させた。
「い、いやというわけでは」
「じゃあ、好き?」
「え?! や、その、す?!」
嫌ではなければ好きなの?!
七生の唇が指先を擽って、それからペロリと舐めた。
「ひゃあっ! な、な、なにを……っ」
「嫌じゃないならいいよね」
「でも、……でもっ」
まだ好きだという気持ちを思い出したわけでもない。
今の状況は、会社の役職者との謎の戯れだ。