ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
事件発生
初めて七生が旭川文という存在を知ったのは、今から一年と少し前。
そのころは、学生時代の友人である吾妻が、副社長に就任して三年目であった。
吾妻は就任直後から、売上が横ばいなことにテコ入れを始めていた。
販売手法も商品も悪くない。利益を上げるためには販売環境と人員整理が必要と考えた。
人を減らすのではなく作業を効率化し、勤務時間を減らすのが目的だ。
他にも、業務の整備を始める。
その中のひとつとして、ユーザー評価の獲得があった。
口コミというものが売り上げに大きく左右される小売業の界隈で、評価をあげることはもちろん、火種になりそうなものはどんな小さな芽も潰していくという戦略を立てた。
七生は吾妻から専属の弁護士になって欲しいと、しつこいほどの勧誘を受けていた。
正直、訴訟の相談なら断らないが、専属になるだなんてまっぴらごめんだ。経験しておきたい案件は他界隈にも山ほどある。
七生はその日、単発の請負ではあるが、FUYOUの仕事をしに本社へ向かっていた。
ついでに何度断っても、しつこく誘ってくる吾妻にケリをつけようとも思っていた。
何度誘われても、話を受けることはない。
白を基調とし、清潔さが感じられる本社のロビー。
七生は慣れた足取りで横切った。
いつ来ても、鏡面の床も綺麗に磨き上げられている。
受付をすませ、ビルの上部に位置する応接室へと向か。
その時、女の声が響いた。
それほど大きな声ではなかったが、少しヒステリックなそれは喧騒の中でもよく届いた。
「だって、治らないじゃない……!」
三十代くらいと思しき女の手には、筒型のものが握られている。
FUYOUが出している、化粧品ではないだろうか。