ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
「え? いい感じに実験できるかと……大した怪我ではないので、明日には焦げた皮膚が黒ずむはずなんです。炎症は塗り薬で収まると思うのでその後の皮膚の回復速度をモニタリングして……」

相手が副社長だと気づいていないのか、文は目をこすりながら話す。

自分で人体実験をするつもりだったのか。
七生はおかしな女だと驚いた。
吾妻も目を丸くしている。

そこに、泣いていた女が口を挟んだ。

「FUYOUの商品はインチキよ! 綺麗になるっていうから信じたのに、なにも良くならないじゃない。顔がこんなことになって、彼にも婚約破棄されたのよ」

「失礼ですが、その怪我はどちらで?」

七生は女を観察する。
化粧品でできた火傷ではなさそうだ。

「彼の部屋で遭遇した女ともみ合いになったの、その時熱湯をかけられて……」

悔しさを思い出したのか、女はまたぼろぼろと泣き始めた。

女は泣きながら語った。
二股をかけられて、さらには捨てられてしまった。
火傷の治療後にFUYOUの化粧品を使ったが跡が改善されなかった。そして逆恨みということらしい。

事情がわかり、七生は吾妻と目くばせをする。
いくら会社に非はなかろうと、慎重に扱わないと粘着質なクレーマーを生み出してしまう恐れがあった。

色んな通販サイトに評価を下げる書き込みをしたり、何度もクレームの電話をしてきたり。
そんな客は何人も見てきた。

本社ならまだしも、関係ない販売店などに電話をする事例もあり、やっかいだ。
いつまでも根に持って嫌がらせをされたのでは堪らない。

浮気相手を訴えて、留飲が下がるように誘導するか……。
最小被害で済む方法に考えを巡らせていると、ソファに埋もれ、寝てしまいそうだった文が急に立ち上がった。
文は女の正面にかがむと、徐に頬の傷跡を撫でた。
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