ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
「な、なに……?」
眼鏡がないせいで見えないのか、肌まで数センチの距離に顔を近づけた。
文はうろたえる女の傷を不躾に確かめると、次に自分の荷物を漁りだす。
いったい何をする気だと、周りは唖然としながら見守った。
「火傷直後の冷やし方が足りなかったようですね。範囲は広いですが、深い傷ではありません。時間はかかりますが改善の余地は十分にあります。
こちらの商品がシミを抑えるんですけど、とろみのあるテクスチャーでしっかり浸透します。保湿と美白に特化したのがこれで、肌の修復に有効なのがこちらです。……今まで何を使ってました? 合わない成分があると痒みがでることもあるので……」
次々と商品を取り出し説明していく。
女は呆然と聞いていた。
「わたしだって色々試したのよ」
「ええ、間違ってません。ちょっと時間がかかっているだけで、良くなりますから。並行してこのサプリメントも飲むとより効果的です。このサプリメントは……」
文はよくわからない専門用語を使って、くどくどと話す。
店舗店員のように商品の素晴らしさを宣伝するわけではなく、ただひたすら効能だけを喋る。
まるで、説明書を読んでいるかのようだ。
「精神的に疲れていて睡眠時間も少ないのではと推測します。食事はとれてますか? バランスのよい食事が皮膚を形成し、皮膚のサイクルというのは……」
文はまわりが呆気にとられていることなど気にすることもなく、淡々と解説を続けた。
いつのまにか女も、留飲をさげ聞き入った。
「ほんとに治るの……?」
「理論的には、治るというか改善されます。足りない成分を補って修復を促進させますので」
寝ぼけているだけなのか、事件を起こした犯人に対する度胸もなかなかのもので、面白い人種を見た気になった。
文はその後、七生の火傷も見てくれて、病院の治療後に必要なケアをまた説明するというループに入った。
その場を文が諫めてからは、弁護士としての自分の出番であった。
七生は吾妻に任され、放火未遂事件を公にせずに処理をし、FUYOUはこのトラブルをうまく切り抜けた。