ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
七生は、ずっと断っていたFUYOUの仕事を受けることにした。
専属は困るが、顧問弁護士なら他の仕事もしながら係わる事が出来る。
それも文との接点を持ちたかったという、邪な理由が決定打であった。
しかし、本社幹部と別館の研究室勤務とではまったくと言っていいほど接点はない。
無駄に理由をつけ、毎日のように本社に足繁く通い詰めるも、研究員の文とは会うことはなかった。
必要以上に顔を見せる七生に、吾妻は「専属は遠慮するんじゃなかったのか」と揶揄った。
そんな中、たまに会うことが出来るのが食堂だ。
食堂は全社員が共通して使用する。
本館ビルの最上階に位置し、都心を一望できるのは社員たちに人気であった。
別館に引き籠もりがちな文も、食事の時は食堂に顔をだす。
遠くから見つけて声をかけようとするも、なぜか文はいつもその場を逃げるように去った。
たまに話ができたと思えば、必要以上に怯える様子を見せる。
そんなことを繰り返しているうちに、事件の時の礼を伝えたいなどという理由は、とうに使えないほど時は過ぎていた。
「なんだあの女は!」
その日も、文に逃げられた七生は苛立ちを顕わにした。
吾妻の執務室に入った途端、持っていた書類に八つ当たりをしながらデスクに叩きつける。
「七生がずっと片思いとか面白すぎるな」
吾妻はやきもきしている七生を見て面白がった。
「美女を選び放題だっていうのに、ああいう子が好みだとは知らなかったよ。出会ってから一年でしょ。嫌われているっぽいのによくもまぁ……コツコツと粘り強いところがお前のいいところだけど」
含みを持たせて吾妻は笑った。