ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
契約とは恐ろしいものですね?
「野暮ったいな」
内示がでて挨拶後にもらった副社長からの第一声がこれである。
文はむっとした。
(野暮ったいのを秘書に選んだのはそっちじゃない)
薄化粧に髪は一本にまとめリクルートスーツ。
センスがないのは自分でもわかっているが、準備する時間もお金もない。
「申し訳ありません。スーツはこれしか持っていないんです。来週までに用意しますので……」
土日は引き籠ってゆっくりする予定だったが、買い物にでかけないとダメそうだ。
他の秘書たちの美しいこと。
パンプスやバッグもブランドものなのに、嫌らしくなく控え目に見せるのは流石のセンスだ。
履きつぶしたぺたんこの自分のパンプスを見下ろして、その違いに今後が不安になった。
「いや、明日からついてもらうのにそれではさすがにまずい。今日中に準備してきて」
「え、今からですか?」
吾妻の指示に驚く。
「そう。出かけてきて」
「で、でも、あまり詳しくなくて、ちょっと皆さんのスタイリングを参考に勉強してからが……」
「七生を付けるから、一緒にいくといい」
「はい⁉」
(なんで間宮さん?)
吾妻の横に控えて仕事をしていた七生も、顔をあげてこちらを見た。
鋭い視線に俯いて顔を隠す。
偏見かもしれないが、頭の回転が良い人間は苦手だ。
しゃべるだけですごく気を遣うから嫌なのに、今後はこの七生とも、一緒に仕事をしていかないといけないのが憂鬱だった。
自分がおどおどしているのが悪いのか、どこにいても見張られている気がして、七生が怖いと感じていた。