ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
「全身に打撲はあるけれど、軽いものだ。足を少し捻っているが骨折もなし。彼女を受け止めた七生のほうが怪我が多いくらいだよ。
それよりも、ちょっと痩せすぎかな。貧血ぎみだし栄養失調の兆候も見られる。
寝不足に疲労も重なってるだなんてお前の会社、ブラック企業だったっけ?」
「俺の会社じゃない。俺は顧問弁護士として契約しているだけだ。……まぁ、吾妻は文を良いように使いすぎていたから、さすがにそろそろ釘をさしておくくらいはするけどな」
こればかりは七生のセリフに同感だった。
副社長である吾妻に秘書を任命されてから二カ月。だんだんと慣れては来たが、不得意な分野のため心労も疲労もピークだった。
「特別個室まで用意してあげちゃって。俺の病院結構高いけど大丈夫? 文ちゃん愛されてるね~」
「うるさい。資金の心配など無用だ。あと、文の名前を気安く呼ぶな」
七生の話はいつ聞いていても口が達者だ。
いつも気どった口調しか知らないから、本当にあの七生かと思うくらい砕けているが、友人といると普段はこんな感じなのだろう。
「うわ、嫉妬してる七生とかおもしろすぎる」
揶揄いを含んだ笑いを聞きながら、文は首を傾げた。
階段から落ちて頭を打ったことは確からしい。
その事実確認はできたが、それ以外はさっぱり意味がわからない。
今まで名前で呼ばれたことなど合っただろうか。それほど親しくしたことなどない。