ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
(よかった……)

パーティーも終盤にさしかかったので、文は少しだけ吾妻の側を離れた。
同伴者と別行動を取る人たちも多いが、文は離れないように言われていたのもあって、ずっと吾妻にくっついていた。
疲れが出てきてしまい気分を入れ替える必要があった。

先に化粧室に入り、身なりを確認する。
合間合間にお酒もはいるし、立ちっぱなし。壁際で休憩するわけにもいかず、足も痛いし気持ちが悪い。
体調は最悪だった。早く終わらないだろうか。
フラフラする体に活を入れる。

軽くパウダーと口紅だけで身なりを整え、バルコニーに移動した。
冷たい風が肺と肌を刺激し、気分がシャキッとする。

(あと少しだ)

そう言い聞かせて一階へ戻ろうとしたとき、そいつは現れた。

「もしかして旭川さんじゃないです?」

突然後ろから声をかけられた。
慌てて振り向く。

「は、はい」

「やっぱり、FUYOUの旭川さん! まちがいじゃなくてよかった。ラベンダー色のドレスだと他の参加者から聞いて、探していたんです」

170センチそこそこの身長。くりんくりんの天然パーマに、大きな目。一件可愛らしい風貌だが、とんでもない遊び人だから気をつけろと言われていた大山の息子、大山賢だった。

父親は派手な遊びばかりしていないで、落ち着いて欲しいと思っているらしい。
文は遊んでいなそうな地味なタイプで目をつけられたのだろう。

よりによって、なんでひとりの時に会ってしまうのだろう。

「初めまして大山賢です。僕に会いに来てくれたのに、遅刻しちゃってごめんね」

盛大な勘違いに顔が引きつった。
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