ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
会ってくれと言われて出席したが、別に会いに来たわけではない。

「父さんが言ってた通り可愛いね! 擦れて無さそうなところが他の人と違っていいかも」

あなたは見かけによらず、だいぶ擦れてますね?
そんな言葉を飲み込んでジリジリと後ろに下がった。
みんなのいるところへ急いで戻ろう。

「初めまして、吾妻の秘書をしております旭川と申します。このたびは創立七十周年、誠におめでとうございます。本日はパーティーへお招きいただききありがとうございました」

定型文の挨拶を済ますと、すっと歩き始める。

「吾妻を待たせておりまして、すぐに戻ると伝えておりましたので、失礼致しますね」

本当に失礼ではあるが、致し方ない。

「あ、ちょっとまって、少し話しましょうよ」

腕を掴まれて、歩みが止まる。

「っで、でしたら、今来られたのでしたら、お食事がまだですよね? とてもおすすめしたいメニューがありましたので、ぜひ」

「そんなのいらないよ。ここのホテルは懇意にしていて、食事をする機会が多いんだ。僕の方がメニューに詳しいよきっと。あ、じゃあさ、部屋とるからそこでゆっくり話そうよ。ルームサービスも頼めるし」

「……っ……一度吾妻に声をかけて参りますね」

強めに腕を引くと振りほどくことが出来た。

(どうしようどうしよう)

あんなに対処法を習ったのに頭が真っ白だ。
怒らせないように断らなくちゃ。
その隙に早足で階段へと向かう。

「いいよそんなの。あとて僕が電話しておいてあげるから」

背中から声が追ってきた。
肩を掴まれる。

「わぁ、すべすべ。肌きれいだね」

そろりと撫でられて、全身が怖気だった。
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