ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~

ひと通りの診察が終わる。
どうやらここは、運び込まれた病院の個室らしい。
ひとり部屋で、明らかに通常の病室とは格が違った。
こんな豪勢な部屋に入院だなんて、支払いが心配でたまらない。

呼ばれた看護師に点滴を変えてもらっている間に、宝城がカルテを書きながら質問をした。

「名前言える?」

「……あ、旭川(あさひかわ)……(ふみ)、です」

診察が終わった途端に、七生はまた手を繋いでくる。
動揺した文は、簡単な問いかけにもしどろもどろの返答になった。

「生年月日と年齢を」

「え、ええと、十一月十一日、二十七歳、です」

質問の間、真横からの鋭い視線に冷や汗しかでない。

「何があったか覚えてる?」

そんなの、忘れたくても忘れられない。
階段を踏み外して落っこちただなんて恥さらしもいいところ。

パーティーを台無しにし、社長に恥をかかせた。
秘書課の歴史に泥をぬったのは間違いない。きっと会社中から非難される。文にとっても黒歴史だ。

「……ホテルの階段から、落ちて……」

もごもごと答えた。
恐る恐る七生を確認すると、眉間の皺が深まっている。

返答に問題があっただろうか。
この人はなんでここにいるんだろう。
やはりやり手の弁護士は、損害賠償の請求でも考えているのかもしれない。
責任逃れなどしないように見張っているのだ。
もしかして、落ちた時に七生の他に巻き添えにしてしまった人がいるのかも。

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