ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
マンションに帰って文が落ち着くまで、七生は至れり尽くせりだった。
お風呂の準備をし、髪を乾かしてくれ、文はソファに座っているだけ。
膝掛けをかけ、ホットミルクを淹れてくれた。
蜂蜜を垂らし、優しい甘さにほっとする。
「ありがとうございます……うれしい……」
「文が教えてくれたから。なんだっけ? 牛乳のペプチドが鎮静効果があって、トリプトファンがよく眠れる成分なんだっけ」
「よく覚えてますね」
「そりゃあ、毎晩飲んでいれば」
ふたりきりなのも一緒に寝ることも、どうしても緊張してしまい、落ち着くために寝る前に飲むことがルーティンになってしまった。
でも説明したのは一回だけだ。物覚えがいいなぁと感心する。
「落ち着いた?」
隣に座ると、七生もミルクを飲んで大きく息を吐いた。
「はぁ、ほんとに気分が落ち着くから不思議だ。プラシーボ効果もありそうだ」
「助けてくれてありがとうございました……」
七生が来てくれなかったら、どうなっていたか。
賢の手の感触を思い出してぶるっと体を震わせた。
「こら、あんな男を思い出すな」
七生はマグカップを置くと、文の頬を指先でつつく。
「……はい、はい。そうですね」
とても気持ち悪かった。あんな少しのことで、体が硬直し声も出せなくなるなんて。
思い出すなと言われているのに、目が潤む。
「文の防犯意識の低さも問題だぞ。今後は迎えに行くから頼むから連絡をしてくれ。今回は三宅さんが連絡してくれていたからすぐに駆けつけられたけど」