ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
「ごめんなさ……」

謝ろうとしたら、口を塞がれる。

「謝るのは禁止! 文が悪いわけじゃない。文はもっと素直になって俺に甘えればいいの」

頼らなかったことを拗ねているらしく、しかめ面のまま抱きついてきた。

「あいつは法の力でねじ伏せてやる。早く忘れてしまえ」

「取引は大丈夫でしょうか……」

「大山専務は常識的な人だから大丈夫だろ。息子は自白までしてるんだ。何も言い返せないさ。その辺は吾妻がうまくやるよ」

「自白?」

「…… “ちょっと触ったぐらいで”。ーーーー 馬鹿なやつだ」

そういえば、そんなような事を言っていた気がする。
言質を逃さないのはさすがだ。

「ふふ、そうですね」

思わず笑みがこぼれる。七生がついていてくれれば大丈夫なのだろう。

「やっと笑った」

七生も目尻を垂らした。
仕事中はあんなにすましているのに、ふたりになった途端、優しいなんて反則だ。

ちょっと強引で意地悪なときもあるし、ギャップがありすぎて困る。
文は七生の胸に額を寄せた。

「文は俺は嫌ではない?」

「七生さんが? どうして?」

婚約者が嫌な筈はない。

「だって君は、俺をまだ好きじゃないから」

記憶の事を言っているのだと思った。
なんで思い出せないんだろう。
< 88 / 132 >

この作品をシェア

pagetop